2016/05/23

ニュー・ラナークとロバート・オウエン

春学期がはじまる前の話ですが、スコットランドのニュー・ラナークに行ってきました。グラスゴーから電車で一時間ぐらいのラナークから、歩いて15分ぐらいのところにあります。前々から行きたかった場所で、書籍で読んでいた印象よりも、自然に囲まれた風光明媚な場所でした。

ロバート・オウエンがデヴィッド・デイルから引き継いだ紡績工場が、労働環境・教育・協同組合などの仕組みで注目されたのが19世紀前半。当時から労働者の自治が行き届いたモデル町として、世界中から訪問客が訪れていました。その後、1968年まで工場は稼働しています。

日本だと「新しき村」のように、農業や養鶏を基礎とした共有財産のコミューンは存在しますが(外部にも開放していて、美味しい農産物が買えますが)、工業に根ざした共有財産のコミューンは存在しないと思います。

ニュー・ラナークは現在も200名ほどの住人の手で、建物がホテルや展示施設に改装されて、往時の雰囲気を保全しています。
エンゲルスに空想的社会主義と批判されたロバート・オウエンですが、展示内容に目を通すと、英国では社会主義者としてよりも、共同体主義者(コミュニタリアン)として、再評価されているのが分かります。

オウエンは晩年、アメリカ・インディアナ州のニューハーモニー村で失敗しましたが、ニュー・ラナークは「成功」と言えるものでした。
エドマンド・ウィルソンが『フィンランド駅へ』で書いていましたが、アメリカの理想主義的なコミューンは宗教なしでは長続きしなかったわけで、オウエンをインディアナでの失敗で「空想的」と切り捨てるのは気の毒な気がします。

ニュー・ラナーク同様の理想主義的なコミュニティでは、ソルテアも世界文化遺産に登録されています。ソルテアにも足を運びましたが、こちらの建物も、本屋やレストランに改装されて現在も生きた町の施設として、住民に利用されています。

スコットランドを含む英国には、産業革命のごく初期の産業遺産が点在していて、今書いている原稿の関係で順番に取材しているのですが、古くても保全状態がいい産業遺産が多いのが印象的です。
戦禍が少なく、ヴィクトリア期の頃から産業革命期の遺産を懐古趣味的に大事にしてきたという事情もあるのでしょう。
車でアクセスするより他ない「とんでもない」田舎町に、3世紀以上も前の施設が綺麗に残っていたりします。

オウエンの死後、1世紀も生産を継続し、教育や自治の機能を育んできた建物が、住民に手入れされた状態で保全され、展示施設として利用されているのは、素晴らしいことだと思うのです。