2024/03/18

佐藤正午『冬に子供が生まれる』書評/北海道新聞

 北海道新聞に佐藤正午さんの話題作『冬に子供が生まれる』の書評を寄稿しました。7年ぶりの新作で、直木賞受賞第一作です。直木賞を受賞し、第一作を7年も出さなかった作家は、他にいないのではないかと思います。この間に映画は2本作られていて、『鳩の撃退法』に登場する作家の津田は、直木賞を2年連続で受賞しています。ヴォネガット、ナボコフ、ジェームス・M・バリー、村上春樹、中井久夫と、短文ですが、様々な書き手の作品を思い浮かべながら、論じました。
 私の息子も冬に生まれましたが、本作に記されているような「メールによる事前連絡」は無かったですね。子供たちとヴォネガットや佐藤正午の「時空の歪みを感じさせる小説」について話す日が、いつか来るでしょうか。
 佐藤正午さんは佐世保からほとんど出ずにプロとして書いて来られた作家です。直木賞の受賞会見も電話で、山田風太郎賞の時も欠席でした。近作の小説のテーマが、偽札→生まれ変わり→UFOというのもユニークで、佐藤さんのように地方在住で「個性の強い作家」が少なくなりました。ここ3作のモチーフに、作家らしい実存を賭けたリアリティを感じます。札幌とも佐世保とも解釈できる土地を舞台にした、北海道新聞にぴったりの本で、良い機会でした。同じ書評欄には上野千鶴子先生と千葉一幹先生が寄稿されていました。

<書評>冬に子供が生まれる 佐藤正午著 皮肉こもった「文明批評」


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 IAMCR(国際メディア・コミュニケーション学会)のカンファレンスの査読を通りましたが、開催地のニュージーランド・クライストチャーチの7月は冬で、最高気温が10度前後、冬装備が必須とか。発表は、日本の地方を舞台にした現代文学とその映像化作品のマイノリティの表象に関する内容で、査読者1が中の上ぐらいの評価で、査読者2がほぼ満点の評価でした。平均するとほどよいスコアで「知足者富 不失其所者久」(老子)という感想。IAMCRはEx Ordoを使っているので、査読結果のフィードバックが早くて良いです。
 7月に冬というのは調子が狂いますが(円安もストレスですが)、カンタベリー大学に滞在しながら、他国の研究者と話をするのを楽しみにしています。IAMCRはUNESCOの後押しで1957年にできた国際学会で、国連の各部局に関係するセッションも多いですが、昨今の国際情勢にメディア・コミュニケーション研究がどのように寄与すべきか、毎年問われているように感じます。
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 春休みは『松本清張はよみがえる』に関連した原稿×2、講演の準備や、電通の依頼で日本企業の海外CMの監修に取り組むなど。骨折と脱臼で寝てる時間が長くなり、体重が増えたので、塩分や糖分やアルコールの摂取量を抑えつつ、リハビリの強度を上げていきたいです。
 リハビリのモチベーションを上げるためにNFLの選手のトレーニング動画をみることが多いのですが、同じジャンルでは、ロッキーのダイジェスト動画が英語圏で人気です。フィラデルフィアの街並みが心地よく、イタリア市場の人情ランニングや、カトリック教徒らしい十字架スクワット、生卵のジョッキ飲みや、冷凍庫の肉塊へのプロレタリア・パンチ(そんなことをやっていいのか)など、スタローンの脚本らしい、味わい深いシーンが多いです。スタローンは父親がイタリア系のカトリック教徒です。
 ただスタローンの筋肉は、どう見てもボクサーのそれではなくボディービルダーのそれです。「ランボー2 怒りの脱出」や「ランボー3 怒りのアフガン」の時も思いましたが、兵士ではなく、完全にボディービルダーです。「ボディービルダーは助けてくれるのか?」という疑問を、弓矢でヘリを爆破するなどの大活躍で払拭してくれます。ちなみに「怒りのアフガン」は、米軍にタリバンが味方する姿を描いていて、この映画はその後の国際情勢について色々と考えさせる内容でもあるため、一部では評価が高いです。何れにしてもスタローンの筋肉は固すぎるわけですが、ポール・マッカートニー似の笑顔がその固さを和らげるので、ロッキーシリーズは、突っ込みどころも含めて、トレーニングのモチベーションを上げるのに「ちょうど良い」のだと思います。