2022/01/18

第166回直木賞展望(西田藍さんとの対談)

 第166回直木賞の候補作について、文芸アイドルで書評家の西田藍さんと対談した記事が掲載されました。今回の対談は、明治大学国際日本学部のゼミ生に公開の上、実施しました。今村翔吾『塞王の楯』や米澤穂信『黒牢城』など今回も良い候補作が挙がっていますので、ご関心を頂ければ幸いです。

「第166回直木賞展望 直木賞はどの作品に」

https://www.nishinippon.co.jp/item/n/863131/


 私が推した2作品についての対談用の評は下記です。

今村翔吾『塞王の楯』 さいおうのたて
 近江国穴太で石垣造りを生業とする穴太衆の視点を通して、関ケ原の戦いの前哨戦となった大津城の戦いを描く。戦国時代の中心は関西であり、興味深い人生を送った武将たちの城跡が多く残る。滋賀在住の作家らしく土地の描写が上手い。矛と楯だと、「矛」に重点を置いた歴史小説が多いが、「楯」に着目し、石垣が長い時をかけて物語る歴史に目を向けている。
 親族の女性たちの七光りで出世したため「蛍大名」と言われた京極高次が、家臣や領民の犠牲を避けるために心を砕く優しい側面を持つなど、人物描写に奥行きがある。終盤で描かれる鉄砲や大砲を作る国友衆との「矛楯合戦」は、小説らしい「イリュージョン」と言える表現で、見事という他ない。
 籠城戦に注目した二作品が候補になったのは、新型コロナ禍で自宅への「籠城」を強いられてきた世相に符合しているように思える。

米澤穂信『黒牢城』 こくろうじょう
 織田信長に謀反した戦国時代の大名・荒木村重の有岡城の戦い描く。尼崎の北、兵庫県伊丹市が舞台。ミステリー仕立てのエピソードを通して、死の気配が漂う戦乱の世を様々な角度から描く。名探偵役として有岡城に捕えられた黒田官兵衛を登場させ、信長に攻められ将兵が次々と寝返っていく「心理戦」が展開される。
 若き侍の謎めいた死をめぐる詮議、戦から首実検に至る城内の駆け引き、村重や官兵衛の秘めた思いも巧みにミステリー化している。「人は城」という言葉が、様々な思惑が交錯する籠城戦を通して血肉化されている。信長の逆を為すことを決めた村重の「治者」らしい内面描写が面白く、登場人物の多彩さ、道具立て、物語の構築の上手さ、戦国時代の大名の「宿命」の動きも上手く捉えられている。
 黒田官兵衛の息子で福岡藩の初代藩主・長政も、幼名の松寿丸として登場する。黒田父子の結び付きの深さと、その後の福岡の街の繁栄をもたらした史実が、終盤にかけて浮き彫りにされていて、面白い。