2019/12/26

西日本新聞「現代ブンガク風土記」第90回 小野正嗣『残された者たち』

西日本新聞の連載「現代ブンガク風土記」(第90回 2019年12月22日)は、大分県の南東部、佐伯市を想起させる場所を舞台にした小野正嗣の『残された者たち』を取り上げています。表題は「「ポスト限界集落」の将来」です。

今年は新しい仕事(新聞連載、文芸4誌への寄稿、映画パンフレットの解説、メディア・リテラシーDVDの監修など)との出会いに恵まれた一年でした。お世話になった皆さまに、心より感謝申し上げます。西日本新聞の連載「現代ブンガク風土記」も90回目を迎えました。年末年始はお休みで、年明けは1月12日の掲載となります。

小野正嗣『残された者たち』あらすじ
限界集落化して久しい住人5人の集落の小学校を舞台にした作品。「尻野浦」の小学校で暮らす校長先生、不正採用が発覚して小学校教師を辞めて集落に来た訳ありの杏奈先生、元大学教員で、妻を亡くし「もう東京はいいや」と思って移住してきたトビタカ先生と養子の純とかおるなど、訳ありの人々を描く。彼らの集落にある日、山を越えた「ガイコツジン」集落からエトー君がやってくる。



2019/12/17

西日本新聞「現代ブンガク風土記」第89回 柳美里『ゴールドラッシュ』

西日本新聞の連載「現代ブンガク風土記」(第89回 2019年12月15日)は、横浜市の黄金町を舞台にした柳美里の代表作『ゴールドラッシュ』を取り上げています。表題は「少年の「快楽と暴力」に肉迫」です。

今週の土曜日に早稲田大学の20世紀メディア研究所で「江藤淳と戦後日本の文芸批評」という表題の発表を行います。学部は早稲田大学でしたが、これまで学会や研究会で縁が薄かったので、研究会に参加することを楽しみにしています。(年末の締め切りの関係で、何を話すかは準備中ですが。。)
http://www.waseda.jp/prj-m20th/

20世紀メディア研究所 : 第133回研究会
・ 日時:12月21日(土曜日)午後1時30分~6時00分
・ 場所:早稲田大学 早稲田キャンパス3号館8階808教室

◇ 発表者、テーマ:
・酒井信(文教大学情報学部メディア表現学科准教授)
 「江藤淳と戦後日本の文芸批評」


柳美里『ゴールドラッシュ』あらすじ
パチンコ店を経営する裕福な家庭で育った「少年」は、中学校に行かず、横浜の黄金町で一日を過ごし、ドラッグに浸っている。神戸連続児童殺傷事件を想起させる内容で、異なる登場人物の意識を通して、父親の殺人に手を染める少年の現実感を捉える。黄金町や野毛山公園など、横浜の旧市街の名所を、この界隈で育った柳美里らしい視点から描く。



2019/12/12

西日本新聞「現代ブンガク風土記」第88回 東山彰良『流』

西日本新聞の連載「現代ブンガク風土記」(第88回 2019年12月8日)は、東山彰良の直木賞受賞作『流』を取り上げています。表題は「中国ー台湾ー日本…他文化小説」です。写真は学生時代から馴染み深い、中野サンモール商店街です。未だに映像・音楽関係のハードウェアは、この先の中野ブロードウェイにあるフジヤエービックで購入しています。

東山彰良『流』のあらすじ
山東省から移住してきた外省人の祖父と、高校教師の父を持つ葉秋生は、祖父の死と受験勉強のストレスから、大量のゴキブリや幽霊や狐火などの幻覚を見るようになる。葉秋生が成長していく過程で、祖父が国共内戦の時に経験した虐殺の謎が解明され、複雑な歴史を経て生まれた中華民国の戦後史が紐解かれていく。第153回直木三十五賞の受賞作。





2019/12/06

講談社「群像」2020年1月号に寄稿しました

講談社「群像」2020年1月号に、吉田修一『逃亡小説集』の書評を寄稿しました。タイトルは「生真面目な人々の「逃亡文学」」です。

西日本新聞の連載で毎週、現代文学を取り上げていることもあってか、今年は月刊文芸誌4誌(文學界・新潮・群像・すばる)に寄稿した初めての年になりました。様々な作家・評論家が寄稿した500ページを超える大ボリュームのお買得な新年号ですので、ぜひご一読を!

「群像」2020年1月 目次
http://gunzo.kodansha.co.jp/55737/55772.html

「すばる」2019年12月号 吉田修一『アンジュと頭獅王』

2019/12/03

西日本新聞「現代ブンガク風土記」第87回 森見登美彦『夜行』

西日本新聞の連載「現代ブンガク風土記」(第87回 2019年12月1日)は、森見登美彦の人気作『夜行』を取り上げています。表題は「日常の「闇」描く怪異小説」です。

今週は売れっ子のフリーライター・斎藤哲也さんにゲスト講義でお話を頂きました。 ベストセラー本を数多く手掛け、著名人の対談の構成や本の編集を多く担当されている斎藤さんのお話は、出版業界の最前線の話題といえる充実した内容で、学生たちからも多くの質問が挙がっていました。共著『IT時代の震災と核被害』をご担当頂いて以来のお付き合いです。


森見登美彦の「夜行」は、日常の中に垣間見える「闇の世界」を描いた都市伝説のような怪談小説です。架空の銅版画家・岸田道生の連作「夜行」と「曙光」を手がかりとして、京都・出町柳の英会話学校に通っていた「長谷川さん」の失踪事件の謎に、恋心を抱いていた「大橋君」が迫っていきます。

5人の仲間たちの話に登場する「奇妙な家」と、そこに導かれて失踪し「顔を失った人々」にまつわる物語は、上田秋成の怪異小説のように、読者を日常の「向こう側」へと誘い、シュールレアリスムの絵画のように、私たちの現実感覚を狂わせていきます。川端康成の「雪国」を下地にしている点も面白いです。

複雑に絡み合った「謎」は、容易な解釈を拒絶するものですが、明瞭な文体で独特の作品世界を築いてきた森見登美彦らしい作品だと思います。