2022/08/29

「没後30年 松本清張はよみがえる」第3回『半生の記』

 西日本新聞の連載「松本清張はよみがえる」第3回(2022年8月29日)は、清張の自伝小説『半生の記』について論じています。担当デスクが付けた表題は「社会の底で培われた 叩き上げの自伝小説」です。清張ファンとして知られ、清張と同じく「叩き上げの作家」と言える宮部みゆきさんの作品と比較できて、良かったです。

『半生の記』は松本清張が41歳で小説家としてデビューする以前の人生を描いた自伝小説です。彼が朝日新聞社を辞めて46歳で専業作家になり、82歳で亡くなったことを考えれば、小説家以前の「半生」が松本清張にとって人生の過半を占めます。戦後復興や経済成長の中で置き去りにされてきた人々に光を当てた清張の作品は、高等小学校卒の学歴で社会の底を生きてきた「半生」の中で培われたと言えます。清張のようにタフに、困難な時代を渡り歩きたいものです。

 次の掲載まで3日ほど空きます。短期集中連載で、平日にランダムに掲載されますが、無理のないペースで、現在、ゆるゆると二十数本目の原稿を書いているところです。新型コロナ禍やウクライナ戦争などがあり、政治・コミュニケーション・経済・メンタルヘルスなどの悪化で、世の中が大らかさを失っているように思えますので、超音波や時刻表、青酸カリや濃クローム硫酸風呂など様々な「社会派トリック」を用いた清張作品でストレスを発散し、「文学の懐の深さ」を楽しみたいものです。

WEBアステイオン「氷河期世代が振り返る平成――「喪の作業」としての平成文明論」

 「WEBアステイオン」(Newsweek Japanのサイト)に、「氷河期世代が振り返る平成――「喪の作業」としての平成文明論」を掲載頂きました。今年の1月に入稿した與那覇潤さんの『平成史』(文藝春秋)に関する10枚ほどの論考で、「アステイオン96」(サントリー文化財団)の掲載原稿を、タイトルを変更の上、転載したものです。本文は紙媒体と同じです。紙媒体とWEB版を上手く運用していて、「アステイオン」は素晴らしい雑誌だと思います。

WEBアステイオン 氷河期世代が振り返る平成──「喪の作業」としての平成文明論

https://www.newsweekjapan.jp/asteion/2022/08/post-71.php

Yahoo!ニュース版 Newsweek

https://news.yahoo.co.jp/articles/b956da50977cc148dd1c2fb98fe8b749be3c0772?page=1

原稿の詳細 「アステイオン96」に寄稿しました 2022/5/22

https://makotsky.blogspot.com/2022/05/96.html


2022/08/26

「没後30年 松本清張はよみがえる」第2回『ゼロの焦点』

 西日本新聞の連載「松本清張はよみがえる」第2回(2022年8月26日)は、初期の代表作の一つ『ゼロの焦点』について論じています。担当デスクが付けた表題は「映えるグッドクリフ 能登に根を張る人々」です。

 この小説は清張が「ブラック清張」と呼ばれるきっかけとなった作品です。清張は黒を題名に取り入れた作品を多く記していますが、本作ではラストシーンで真犯人が日本海に船を出し、「黒い点」となって沈んでいく場面が、読後に鮮烈な印象を残します。しかもこの場面は一人の女性が死に行く暗いものとしてではなく、最後に光り輝く生を全うさせる感動的なものとして描かれています。

『ゼロの焦点』は松本清張が生死を超えた人間の実存に、文学的な価値を見出していることが分かる作品です。清張ファンとして知られるみうらじゅんが、松本清張作品のベストに挙げていたことも頷ける禍々しさです。メディア論、サブカルチャー論の文脈からも清張作品は再評価すべきだと考えています。

西日本新聞me コーナー「松本清張はよみがえる」

https://www.nishinippon.co.jp/theme/matsumoto_seicho/

第2回 『ゼロの焦点』

https://www.nishinippon.co.jp/item/n/978656/

2022/08/25

新連載「没後30年 松本清張はよみがえる」第1回『遠い接近』

  西日本新聞朝刊で新連載「没後30年 松本清張はよみがえる」がはじまりました。松本清張の代表作50冊を、現代の作家の代表作との類似性に着目しつつ、50回の連載で論じていく予定です。『現代文学風土記』を書くうちに、様々な土地を舞台にした小説を書いた松本清張への関心が高まり、この連載に至りました。

 今年は松本清張の没後30年にあたります。都市と地方の格差や、出自や教育の格差、ネット上で吹きあがる「怨嗟」や「嫉妬」の感情など、現代日本を生きる人々のリアリティは、清張が小説で描いたものごとに、確実に近付いていると思います。「清張的」な物事が現代日本にあふれているように見えます。

 九州北部で生まれ育ったこともあり、長らく小倉で育った松本清張に親しみを感じてきました。松本清張は、戦後日本の大衆文学・映像メディアの世界に巨大な足跡を残した国民作家でした。46歳で専業作家となった彼のバイタリティに学ぶことは多く、これまでも度々、小倉の清張記念館を訪れて、励まされてきました。準備段階で記念館の方々にお世話になったこともあり、勧誘を受けて松本清張研究会にも入りました。

 西日本新聞の連載「松本清張はよみがえる」第1回(2022年8月25日)は、戦時中の体験を記した数少ない作品の一つ『遠い接近』について論じています。イラストは、精密な鉛筆画を描く人形アニメーション作家の吉田ヂロウさんで、清張作品の「禍々しい雰囲気」を上手く表現して頂いています。取り上げる作品のリストは私が作成していますが、現代文学風土記の連載と同様に、掲載順やタイトルの作成は担当デスクにお任せしています。

 松本清張の強烈な個性に彩られた50作品と対峙する50回の批評を、どうぞよろしくお願いいたします。清張と直木賞寄りの作品を含めた現代文学を架橋する新感覚の清張論になるよう、日々、努力をいたします。

西日本新聞me コーナー「松本清張はよみがえる」

https://www.nishinippon.co.jp/theme/matsumoto_seicho/

第1回 「遠い接近」

https://www.nishinippon.co.jp/item/n/978096/


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 江藤淳全集が刊行されました。版元はboid/VOICE OF GHOSTで、kindleで読めます。責任編集が元文藝春秋の編集者で、江藤淳が自裁する直前に会った平山周吉さんです。編集は新潮社の風元正さんです。思想的に江藤は左右の枠に収まらない批評家で、いくつかの仕事は明らかに大江健三郎よりも「左」です。ちなみに42歳でデビューした松本清張と、23歳でデビューした江藤淳の執筆期間は、ほぼ重なっています。


 2019年に開催した「江藤淳没後20年 昭和と平成の批評 ー江藤淳は甦えるー」シンポジウムで、平山周吉さんに全集企画についてお話頂いていたのですが、あれからちょうど3年。『現代文學風土記』を書いた山本健吉が江藤淳の結婚式に参加していたなど、「週刊文春」の香りのする「全集の解説」も素晴らしいです。ちょっとした空き時間にスマホで江藤の筆致を追えるのが有難く、玄人筋にも大好評の電子書籍版・江藤淳全集を、どうぞよろしくお願いいたします。

新刊『現代文学風土記』(西日本新聞社)好評販売中!

『現代文学風土記』(2刷)が好評販売中です。ジュンク堂や丸善、蔦屋書店などで、平置きの販売を頂きました。2段組で原稿用紙換算で900枚ぐらいの分量ですが、学生にも読んでもらえるように1800円+税で、購入しやすい価格に設定して頂いています。多くの方々よりご好評の声を頂き、感謝申し上げます。
 装画は文芸誌の挿絵や、三浦しをんさんや角田光代さんの小説の表紙でお馴染みの金子恵さんです。帯文は、作家の吉田修一さん(長崎南高校の先輩)に、新潮社「波」の一文の転載をご快諾を頂きました。

『現代文学風土記』(西日本新聞社)が増刷されました

日本経済新聞・書評欄(2022年6月11日)

産経新聞・書評欄(2022年7月3日)

中日新聞・東京新聞「大波小波」(2022年6月16日)

北海道新聞・読書ナビ(2022年6月26日)

西日本新聞(2022年6月4日)

西日本新聞(2022年6月27日)テレビ欄・カラー広告

「フリースタイル」(52号 2022年6月25日)

「新潮」(2022年8月号)

遅いインターネット会議(2022年7月5日)

 北海道から沖縄まで47都道府県を舞台にした作品を取り上げつつ、主要な現代作家の代表作や隠れた名作を、直木賞・芥川賞の垣根を超えて網羅しています。発売の前後からこの本に関連したお仕事を様々頂き、心より感謝申し上げます。子供たちにも4年間書いてきた成果を本という形で見せることが出来て良かったです。

 下の版元ドットコムで批評した180作品のリストと前書きが読めます。通常の書籍の2倍ぐらいの原稿量ですので、お手に取って頂くと、写真よりボリュームが感じられると思います。目次や地図、年表にもページをめくるのが楽しくなるような「仕掛け」を施していますので、ぜひご一読ください。大学での教育経験を踏まえ、ふりがなを通常の書籍よりも多めに付していますので、高校生や大学生、留学生にも読書ガイドとしてもお勧め頂ければ幸いです。

版元ドットコム

https://www.hanmoto.com/bd/isbn/9784816710018

ためし読み(版元ドットコム)

https://hanmoto.tameshiyo.me/9784816710018

Amazon

www.amazon.co.jp/dp/4816710019

楽天ブックス

https://books.rakuten.co.jp/rb/17128410/

書店ファックス「【新刊】『現代文学風土記』」

https://www.hanmoto.com/wp/wp-content/uploads/2022/04/c22355f604b686fc5a21899b6f0089ab.jpg

国会図書館

https://iss.ndl.go.jp/books/R100000067-I000591942-00








2022/08/08

「文學界」(2022年9月号)

 文藝春秋の文芸誌「文學界」(2022年9月号)、に吉村萬壱『CF』の書評を寄稿しました。表題は「「ポスト真実」の時代の「悲しみ」」です。この作品は、終盤に作品の認識を反転させる仕掛けがありますので、あらすじ等で紹介されている内容とは異なる読後感が得られます。冒頭からきな臭い空気が流れる吉村萬壱らしい作品です。

 前号の「文學界」の特集「入門書の愉しみ」に寄稿したハンナ・アーレントの原稿も好評でした。ご関心を頂いた方々に感謝申し上げます。個人的には、社会や人間について何か述べる時に、存在論的(超越論的)な思考の素養はとても重要だと考えています。オンラインで世論が形成される時代、「世界内存在」の諸条件を問う20世紀の哲学書を読み返すことは、社会や人間の無意識と向き合う上でも大事だと思っています。

「文學界」(2022年9月号)目次

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 学期末のレポートのやり取りで、メンタル面の不調について記していた学生が増えていたのがやや気がかりでした。前に下の毎日新聞の取材記事で記した通り、メンタル・ヘルスの問題は先入観や外見で「大丈夫」と判断されて、なかなか他人に理解されにくい問題だと思います。
(学生に踏み込んだ助言はできませんが)臨床心理士でも判断や対応が難しい症状もありますので、心療内科を受診して症状に合った薬を服用したり、(東畑開人さんの本を読むと)作業療法・デイケアも大事だと思います。新型コロナ禍が続き、無意識レベルで様々なストレスが蓄積していると思いますので、無理のないペースで頑張りましょう。

「コロナ感染巡る報道」毎日新聞(22年1月24日朝刊)

2022/08/06

九州芸術祭文学カフェin長崎「風土から現代日本文学を読む」(青来有一さんとの対談)

 2022年10月1日(土)に「九州芸術祭文学カフェin長崎」(@長崎県美術館)で、谷崎賞・芥川賞作家・青来有一さんと「風土から現代日本文学を読む」という対談を行ないます。

 場所は、長崎の人にお馴染みの出島町の水辺の森公園の県美です。主催が九州文化協会、共催が長崎県と西日本新聞社、後援が長崎県文化団体協議会です。ご準備を頂いた方々に心より感謝申し上げます。新型コロナウイルスの感染拡大も考慮しまして、広めのホールで60人の定員となっています。

 青来さんとは長崎の原爆資料館の館長時代からお会いしていますが、拙著『現代文学風土記』では青来さんの作品を3つ取り上げていますので、その話と長崎や九州を舞台にした現代小説の話になるかと思います。谷崎賞の『爆心』は名作で、「聖水」も近年の芥川賞受賞作の中でも突出して優れた作品だと思います。

 チラシの裏面に九州芸術祭文学賞の募集も出ています。五木寛之氏と村田喜代子氏に読んでもらえる貴重な機会だと思います。多くの個性的な書き手を輩出した九州で、現代文学への関心が高まることを願っています。

取材記事

風土の記憶を継承する現代文学の可能性/九州芸術祭文学カフェin長崎

長崎県の開催告知

https://www.pref.nagasaki.jp/object/kenkaranooshirase/oshirase/570524.html

西日本新聞の開催告知

https://www.nishinippon.co.jp/item/n/984280/

九州文化協会の開催告知

https://kyubunkyo.jp/archives/1062


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 ACジャパンが放送している呂布カルマの「寛容ラップ」(たたくより たたえ合おう)を見て、スーパーボウルのハーフタイムショーの余波で、日本にもヒップホップブームが再来している感じがしています。2022年5月に出たケンドリック・ラマーのMr. Morale & The Big Steppersが出色の出来栄えで、ピューリッツァー賞を獲った前作を超える内容だったのも大きいと思います(初週セールス全米1位)。ボブ・ディランに次いでミュージシャンでノーベル文学賞を獲るのがケンドリックという評価も納得の新作でした。同時代を生きながら最新作を聞けるのが嬉しいです。