2018/02/26

「問題複合体を対象とするデジタルアース共同利用・共同研究拠点 成果報告会」での発表

今週末に名古屋の中部大学・中部高等学術研究所で行われる「問題複合体を対象とするデジタルアース共同利用・共同研究拠点 成果報告会」で発表を行います。
第二部の最初で「平成期の日本の自然災害に関する新聞報道の定量的な分析と地理空間上の報道分布に関する研究」についての発表です。研究補助員として雇用したゼミ学生2名も引率します。

東日本大震災の報道に埋もれた自然災害(落雷、雪崩、土砂災害、地滑り、崩落)に関する報道の分析を行うことを主目的として、これらの自然災害の報道で言及されている「被災地」を地理空間上にマッピングし、その集中と分散の傾向や報道内容を定量的に分析した内容です。


日本の報道(朝日・読売・毎日・日経の2012年〜2016年の記事、地方版も含む)を対象として、地理空間情報や被災の程度に関する10項目ほどのメタデータを整理し、その報道傾向を分析しています。

昨年は文芸誌に約500枚の原稿を書いてるぐらいなので、しばらく定量的な報道分析の研究からは遠ざかっていたのですが、特定課題研究「サイエンス・コミュニケーション・システム開発」で採択を頂いたので、上記の研究に取り組みました。

この研究は、前任先の慶應義塾大学グローバルセキュリティ研究所(現・慶應義塾大学グローバルリサーチインスティチュート)で行っていた共同通信社との英字ニュース解析の共同研究を応用したもので、5つの自然災害にトピックを絞り、人手による分析に重きを置いて、個人レベルで可能な研究として展開した内容です。

例えば、下は落雷に関する524件の報道のクラスター分析の結果と、地理空間上の分布に関するスライドです。落雷の発生数は九州や山岳地域が多いのですが、これらの地域では報道数が少なく、平野部に報道が集中していることが分かります。また落雷よりも雪崩の方が死亡事故を伴う可能性が高いため、数多く報道され、クラスターが数十%単位で大きくなることも分かります。この研究では自然災害に関する報道の質と報道量の格差が生じる理由について、分析を行っています。




と、書いているとふと前の職場が懐かしくなったので、慶應義塾大学グローバルリサーチインスティチュートのHPを久しぶりに確認したところ、ドローンを使ったと思しき三田キャンパスの空撮がいい感じのHPに変わっています。
http://www.kgri.keio.ac.jp/

以前はもっと地味な堅い研究所、という感じのHPでしたが、どなたか(たぶん慶應のどこかの学部の若手研究者)が頑張って更新されたのだと思います。

最初に映像に映る東館で働いていましたが、東京タワーの景色の素晴らしさもさることながら、中国飯店まで徒歩30秒、席に着いてお茶を一口飲み、担々麺を注文するまで1分という距離が素晴らしく便利でした。

上記の定量的な報道分析は応用範囲が広いのと、少々複雑な方法論とノウハウが出来上がっているので、関係する分野の先生方と、これからも共同研究をご一緒したいと考えています。

2018/02/22

中国文化大学(台湾)をゼミ生と訪問しました

台北の陽明山にある中国文化大学の新聞伝播学部(マスコミュニケーション学部)をゼミの学生と訪問しました。元新聞記者で同大学の教員の郭先生と学生たちの案内で、陽明山にある眺望のいいキャンパスを隅々まで見学させてもらいました。郭先生とは、以前に国際学会のセッションを一緒に運営して以来の仲です。


新聞伝播学部の設備は、日本のメディア系の学部と類似していましたが、学生達が台北のメディアで流す番組を制作したり、毎週、学生新聞を発行したり、設備を生かした活発さな課外活動が強く印象に残りました。学生達も、インターンシップが日常化している学生のパワーに感化されていたようでした。



大学の施設では、屋台っぽい雰囲気で様々な食べ物が並ぶカフェテリアの居心地がよく、日本の学食にも、もっと屋台感が必要だと個人的に思いました。キャンパス内で化粧品が売っているなど、微妙に日本と異なる部分が面白かったです。
日本のチェーン店舗も多く街中に進出している一方で、学生街の個人営業の食堂も活気に満ちていて、150円ほどで十分空腹が満たせます。

キャンパス内にはバスケットコートが多く、台湾のバスケット人気が実感できました。漫画『SLAM DUNK』の舞台となった湘南の聖地を、台湾の観光客の方々が多く巡っているのも納得がいきます。

陽明山から見る台北市や淡水の町の景色は素晴らしいですが、曇りや雨の日が多いそうです。晴れの日のイメージが強いわりに曇りの日が多い沖縄と気候風土が似ていると思いました。

近隣には、米軍から返還された兵隊の宿舎が林立しているのですが、その一帯が観光地となり、多くの建物がリフォームされてお洒落なレストランになっています。米軍に関する施設の雰囲気が、沖縄と全く異なっているので、沖縄出身の学生も興味を持っていました。





夕食で食べた小籠包の味にも大満足で、台湾の懐の深さに充実した一日を過ごしました。

個人的には、東アジアの他大学を大学生のうちに訪れることで、「日本を出たことないのに日本が一番」みたいなことを言う大人を減らすことができれば、いいかなと思っています。

日中台湾で共通の基金を作って、ミネルヴァ大学のように、大学生のうちに東アジアの3、4カ国を半学期で回る「必修プログラム」があっても面白いと思います。
という考えも、高校の修学旅行が、日中友好事業で北京を訪れる内容だった影響もあるのだと思います。

東アジアの国々の若者が互いの国を密に訪問し、現実の交流を土台としてWeb上で繋がれば、感情的な政治問題の多くは解決する気がしています。

2018/02/12

文教大学酒井信ゼミ 卒業研究一覧

2010年に着任して2017年までの文教大学酒井信ゼミの卒論の一覧を作成しました。
ゼミの卒論については、仮説を立てて、それを立証する形式を採り、新聞・雑誌・書籍を通して社会秩序や価値観の変化について分析する「メディア研究」であれば、テーマ設定は基本的に自由としています。一覧を作ってみると、学際的で、多様なテーマが並んでいて面白かったです。

卒論は、選択科目だった時期が長く、必修科目の時期とは、提出された論文の数(と教員の仕事量)が異なりますが、ほとんどの論文がA4で30ページを超える分量の内容で、50ページ以上の論文も多くあります。多くの学生(と教員)が時間をかけ、多くの良い論文が仕上がったことを嬉しく思います。

文教大学酒井信ゼミナール 卒業研究一覧


一覧を振り返って、卒業研究に傾向のようなものがあるか、確認してみました。
先ず気になったのは、教員の関心に近いテーマの論文です。
「ICT時代における市民ジャーナリズムと『正義』」
「東日本大震災における東北の地方紙の役割」
「四国・愛媛における 道州制の望ましいあり方についての研究  -『スローシティ』と『ボローニャ方式』に学ぶ地方自治のあり方-」
「書店と電子書籍の将来 ~ITと店舗空間を利用した新ビジネスの可能性について~」
「現代日本のフリーペーパーとソーシャルメディアの比較分析 ~広告コンテンツの現状と将来について~」
「『異常気象』に関する新聞報道量の推移に関する研究 —2015年 関東・東北豪雨を事例として—」
など、相対的にオーソドックスなJournalism and Media Studiesの研究に取り組んだ学生は、出版社や新聞社、書店など、メディア関連の企業に内定を得ている場合が多いですね。内定を踏まえ、教員からオーソドックスなテーマで書くことを勧めた側面もありますが、本人のメディアへの関心も元々高かったのだと思います。

次に気になったのは個性的なテーマの研究です。
「ニュースメディアの分析を通した相撲の人気回復に関する研究」
「お酒に関するメディア表象の分析」
「フードファイト報道 ~テレビと漫画、2つのメディアから見る競技性とエンターテイメント性~」
「サブカルチャーから読み解く日本人の宗教観」
「現代日本のジェンダーレス現象と少女漫画の姓に関する表象の研究」
「日本における『ミーハーミュージカル』の功罪と商業演劇・ミュージカルの進むべき道」
など、個々人の趣味を貫いた論文を書いた人は、個性的な進路に向かう傾向が強いです。「フードファイト」とか「日本人の宗教観」とか「ミーハーミュージカル」とか、教員の関心とほど遠いテーマでよく卒論を仕上げたものだと感心します。

その次に気になったのは、論文の大半を占めるWebメディアに関する論文です。私のゼミは情報学部に属しているので、IT系の広告会社やコンテンツ配信会社へ就職する学生が多いのと、3年生向けに教員紹介のインターンをいくつかのIT企業にお願いしている影響があるのだと思います。
「デジタルネイティブ世代が インターネットマーケティングに及ぼす影響について」
「著作権と現代日本のサブカルチャーに関する研究」
「インターネット広告の現状分析とビッグデータの活用について」
「現代日本のOOH広告とWEB広告のクロスメディア分析」
「インターネットを用いた消費活動の普及と若者の消費行動に関する研究」
「消費の「これから」を担う世代の消費傾向から読み解く最新マーケティング事情」
など、全体に質の高い論文が多かったです。
IT系の広告会社やコンテンツ配信会社の就職状況も良好なので、論文の質と相関しているのでしょう。

最後に気になったのは、テーマ設定に迷う学生向けに推奨している、就職先の業界研究に繋がる内容の論文や、住んでいる地域の社会・風土に関する論文です。
「SNSによる地域活性化 ~地域SNSとゆるキャラ~」
「浜岡原発のメディア史」
「京都の観光ニーズに関するメディア分析」
「街コンから見る地方自治体の地域活性化政策 ~『次世代文化都市』宇都宮市の宮コンへの取り組みをケーススタディとして~」
傾向として、出身地域をテーマを選ぶ学生は、公務員や事務職など堅実な進路に向かう傾向が強いですね。私も地方出身者なのでよく分かりますが、家族と地元を大事にして、幸福な人生を歩むことは大切なことなので、論文のテーマとして学びを深めるのはいいことだと思います。

文教大学でゼミを担当して8年、卒業研究を担当して7年が過ぎました。30代前半で着任したときには、キャンパス最年少の専任教員だったと思うのですが、すでに私も40歳です。

若い学生達と関わり、相対的に平均年齢の高い職場にいると、いつまでも「若手」の役割を担うことになっていますが、世間一般では言い逃れのできない「中年」なので、そろそろ「四十にして惑わず」で、仕事と人生の地盤を固める時期かも知れません。

サザエさんで言えば、マスオが28歳、波平が54歳なので、ちょうど中間のキャラ立ちしにくい時期ですが、地道に努力していきたいと思います。今年は単著の出版を予定しています。

文教大学酒井ゼミのページ
https://makotsky.blogspot.jp/p/blog-page.html

2018/02/06

Foreign Press Centerのセミナーと賀詞交歓会に行ってきました

文教大学学園が賛助会員となっている公益財団法人フォーリン・プレスセンター(FPCJ)のセミナーと賀詞交歓会に行ってきました。外国メディアへの取材支援を行う日本新聞協会と経団連が設立した団体です。


国際学部の生田祐子先生の勧めで、文教大学の学生もインターンでお世話になっています。日比谷公園が一望できるいい立地で、日本プレスセンターには何度か来たことがありましたが、FPCJは初めてでした。

セミナーも面白く、在京の外国メディア(中央日報、トンプソン・ロイター、第二ドイツテレビ)の日本での具体的な取材の段取りが分かって興味深かったです。

中央日報の特派員の方が、「明治維新150年の取材をしていると、韓国のメディアというだけで、ネガティブな先入観を持たれて困る」と述べていたのが印象的でした。日本ではメディア報道のバイアスが問題になることが多いですが、取材対象であるごく普通の人々が無意識的に抱いている先入観やバイアスについても、考えるべき問題と思いました。

第二ドイツテレビの方が作った日本を取材した映像も面白かったです。特に麺類を食べないドイツの特派員に、現地の人がラーメンの麺の啜り方を一生懸命に身振りを交えて教えたり、24時間営業の店が全くと言っていいほどないドイツの人向けに、コンビニの便利さを伝える映像が印象に残りました。

Media Stuidiesに関する国際学会に参加する時に、いつも思うことですが、日本語だけで活字や映像のメディアを語れる時代は、遠い昔の話です。日本語のメディアで扱われている事例やその背後にあるドメスティックな価値観は、国際的に主流である英語圏のメディアの事例やその背後にある多文化的な価値観とズレています。

日本の自治体の広報関係者の出席の多さが印象的でしたが、インバウンドの観光客への広報活動が活発化している印象を受けました。日本の大学も、留学生が興味を持ったり、海外のメディアが関心を抱くような情報発信を行わないと、国際社会の中でどんどん取り残されていくように感じています。

懇親会も様々な国からいらしたメディア関係の方々や、国際協力活動に関わられている大学の先生方とお話しできて楽しかったです。