2022/09/27

現代文学が描く新興宗教

 西日本新聞朝刊(2022年9月26日)に「現代文学が描く新興宗教」という表題でコラムを書きました。担当デスクが付けた表題は「薄れた壮大さ禍々しさ 人間臭く考えられるか」です。連載「松本清張はよみがえる」の『神々の乱心』の隣の掲載です。書き出しは下の通りで、高橋和巳の『邪宗門』(1966年)を新興宗教を描いた(広義の)現代文学の最高傑作として位置付けました。戦前・戦中の描写もさることながら、外地から引き揚げてきた信者たちが戦後に米軍と戦うという小説の企図に凄みがあり、おそらく、この作品を超える新興宗教ものの小説は出ないと思います。

 近年の作品では今村夏子の『星の子』、角田光代の『八月の蟬』、青来有一の『聖水』の3作品を注目作として挙げました。信仰と信迎の問題は、世俗的な問題≒文学的な問題として奥が深いテーマだと思います。


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現代文学が描く新興宗教

 新興宗教を描いた日本文学史上の名作として、真っ先に高橋和巳の「邪宗門」が思い浮かぶ。大本教を連想させる神道系の新興宗教団体「ひのもと救霊会」が、昭和初期に弾圧され、神殿をダイナマイトで爆破され、戦後には進駐軍と対立し、武装蜂起に至るプロセスを描いた壮大な偽史小説である。松本清張の絶筆「神々の乱心」も、昭和維新の時代を背景とした作品で、未完ながらシャーマニズムと宮中祭祀のルーツに迫る高いテーマ性を有している。この小説は大陸の阿片売買で蓄積した資金を元手に、満州で盗掘された「神器」を使った礼拝で勢力を拡大した新興宗教団体「月辰会研究所」が、戦前の宮中に接近していく内容で、松本清張の絶筆に相応しく「禍々しい作品」である。劉慈欣の「三体」も、中国の共産主義と科学崇拝を「新興宗教」に見立てた作品として高く評価できる。
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