2022/08/25

新連載「没後30年 松本清張はよみがえる」第1回『遠い接近』

  西日本新聞朝刊で新連載「没後30年 松本清張はよみがえる」がはじまりました。松本清張の代表作50冊を、現代の作家の代表作との類似性に着目しつつ、50回の連載で論じていく予定です。『現代文学風土記』を書くうちに、様々な土地を舞台にした小説を書いた松本清張への関心が高まり、この連載に至りました。

 今年は松本清張の没後30年にあたります。都市と地方の格差や、出自や教育の格差、ネット上で吹きあがる「怨嗟」や「嫉妬」の感情など、現代日本を生きる人々のリアリティは、清張が小説で描いたものごとに、確実に近付いていると思います。「清張的」な物事が現代日本にあふれているように見えます。

 九州北部で生まれ育ったこともあり、長らく小倉で育った松本清張に親しみを感じてきました。松本清張は、戦後日本の大衆文学・映像メディアの世界に巨大な足跡を残した国民作家でした。46歳で専業作家となった彼のバイタリティに学ぶことは多く、これまでも度々、小倉の清張記念館を訪れて、励まされてきました。準備段階で記念館の方々にお世話になったこともあり、勧誘を受けて松本清張研究会にも入りました。

 西日本新聞の連載「松本清張はよみがえる」第1回(2022年8月25日)は、戦時中の体験を記した数少ない作品の一つ『遠い接近』について論じています。イラストは、精密な鉛筆画を描く人形アニメーション作家の吉田ヂロウさんで、清張作品の「禍々しい雰囲気」を上手く表現して頂いています。取り上げる作品のリストは私が作成していますが、現代文学風土記の連載と同様に、掲載順やタイトルの作成は担当デスクにお任せしています。

 松本清張の強烈な個性に彩られた50作品と対峙する50回の批評を、どうぞよろしくお願いいたします。清張と直木賞寄りの作品を含めた現代文学を架橋する新感覚の清張論になるよう、日々、努力をいたします。

西日本新聞me コーナー「松本清張はよみがえる」

https://www.nishinippon.co.jp/theme/matsumoto_seicho/

第1回 「遠い接近」

https://www.nishinippon.co.jp/item/n/978096/


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 江藤淳全集が刊行されました。版元はboid/VOICE OF GHOSTで、kindleで読めます。責任編集が元文藝春秋の編集者で、江藤淳が自裁する直前に会った平山周吉さんです。編集は新潮社の風元正さんです。思想的に江藤は左右の枠に収まらない批評家で、いくつかの仕事は明らかに大江健三郎よりも「左」です。ちなみに42歳でデビューした松本清張と、23歳でデビューした江藤淳の執筆期間は、ほぼ重なっています。


 2019年に開催した「江藤淳没後20年 昭和と平成の批評 ー江藤淳は甦えるー」シンポジウムで、平山周吉さんに全集企画についてお話頂いていたのですが、あれからちょうど3年。『現代文學風土記』を書いた山本健吉が江藤淳の結婚式に参加していたなど、「週刊文春」の香りのする「全集の解説」も素晴らしいです。ちょっとした空き時間にスマホで江藤の筆致を追えるのが有難く、玄人筋にも大好評の電子書籍版・江藤淳全集を、どうぞよろしくお願いいたします。