2020/04/29

西日本新聞「現代ブンガク風土記」第106回 三崎亜記『となり町戦争』

西日本新聞の連載「現代ブンガク風土記」(第106回 2020年4月26日)は、三崎亜記の『となり町戦争』を取り上げています。表題は「見えない戦闘 現代の寓話」です。この作品は、となり町とぼんやりと交戦状態になり、人々が互いに疑心暗鬼になる状況を描いたものですが、新型コロナウイルスが蔓延する中で、周囲の人々との関係が弱まっていく、現在の日本社会と重なって見えます。「社会風刺」の色彩も強いこの連載で取り上げるのによい作品だと考えた次第です。

明治大学のオンライン授業開始まで10日ほどですが、5月13日までの授業準備を終えました。サーバーへのアクセス集中と回線の混雑が予想される初週の授業は動画・資料・小課題ともアップロード済です。私の授業ページは、奨学金や各種相談窓口の案内や、安いPC・光回線の案内などで情報量があふれていますので、単位目当ての学生が近付きにくくなっているかもしれません(笑)ネットで話題になっているICUの学生の記事「「話してもわからん」をひっくり返したある日の学長からのメール」の定義だと、「オンライン授業で気合を入れすぎた先生」の一人になるのだと思います(笑)


三崎亜記『となり町戦争』あらすじ
小説すばる新人賞を受賞したデビュー作。「となり町」との日常の水面下で展開される戦争を描く。町役場から依頼された偵察業務を担う「僕」と、町役場で「となり町戦争」の担当者となった香西瑞希との関係が中心に据えられる。広報紙を通して戦死者数が増加していく描写がリアルな作品。デビュー作ながら、第133回直木賞の候補作となり、漫画化・映画化された。

2020/04/22

西日本新聞「現代ブンガク風土記」第105回 井上荒野『結婚』

西日本新聞の連載「現代ブンガク風土記」(第105回 2020年4月19日)は、井上荒野の『結婚』を取り上げています。表題は「「だまされる女性たち」の闇」です。この作品は、結婚詐欺という文学的な題材を、父・井上光晴の同名の小説から受け継ぎつつ、被害女性の結婚願望の底に横たわる「闇」をオリジナリティの高いものとして描いた井上荒野の代表作だと思います。

明治大学は、当面のオンライン授業に伴うノートパソコン及びWi-Fiルータの貸与を決定いたしました。新型コロナウィルスを巡る対応で大変な時期ですが、教育機関で働く人々が懸命にオンライン教育の環境整備に努めていることが、少しずつでも理解されることを願っています。
https://www.meiji.ac.jp/koho/natural-disaster/6t5h7p00003417jg.html


井上荒野『結婚』あらすじ
結婚願望に囚われた全国各地の女性たちと、詐欺師・古海健児のはかない恋愛を描いた作品。東京の高校受験専門の学習塾で事務職員として働く亜佐子は、エッセイ教室で出会った古海にだまされてマンションの頭金を失う。河口湖でウエイトレスとして働く間宮千種は、佐世保にいた頃、妻子持ちの男に貢がせた大金を、古海に奪われ、故郷に戻ることができない。父である井上光晴の同名小説に着想を得た作品。


2020/04/16

西日本新聞「現代ブンガク風土記」第104回 井上荒野『切羽へ』

西日本新聞の連載「現代ブンガク風土記」(第104回 2020年4月12日)は、井上荒野の直木賞受賞作『切羽へ』を取り上げています。表題は「親子二代の記憶を宿して」です。

オンライン授業に向けた準備を進めながら、本を読み、原稿を書く日々です。今週、本棚の増設工事を終えると、研究室の引っ越しがひと段落します。

『切羽へ』をについて、井上荒野は父・井上光晴が育った長崎県の崎戸を舞台にしているとインタビューで述べています。井上光晴は福岡県久留米市の生まれですが、軍港だった佐世保や炭鉱の島として栄えた崎戸で育ち、これらの土地を舞台に小説を記しています。高校生の頃に、この作品を清書する手伝いをして「父の文体を憶えた」というほどで、東京生まれの井上荒野の「血肉」には、長崎県の崎戸の情景がしみ込んでいるのだと思います。


2020/04/09

明治大学の教員データベースを更新しました

明治大学の教員データベースを更新しました。毎週の新聞連載をこなしていると、原稿をどの媒体に何を書いたか忘れることも多いので、大学の教員データベースで業績情報を一括管理することにしています。明治大学国際日本学部に着任して10日ほどが経ち、Zoomで会議や打ち合わせを行いながら、授業準備を行っています。COVID-19で学生たちと会えない状況ですが、オンライン上でもドメスティックな秩序とは異なる、開放的な価値観や社会観を育むようなコミュニケーションを心がけたいと考えています。

https://gyoseki1.mind.meiji.ac.jp/mjuhp/KgApp?kyoinId=ymddgioyggo


2020/04/08

西日本新聞「現代ブンガク風土記」第103回 村上春樹『羊をめぐる冒険』

西日本新聞の連載「現代ブンガク風土記」(第103回 2020年4月5日)は、村上春樹の英語圏での実質的なデビュー作『羊をめぐる冒険』を取り上げています。表題は「開拓地と近代史の暗部交錯」です。明治大学の肩書で書いた最初の原稿です。

『ねじまき鳥クロニクル』の回でも述べましたが、1996年に大学1年生になった私は村上朝日堂のホームページ経由で、村上春樹さんと3通ほどメールのやり取りをしました。『そうだ、村上さんに聞いてみよう』(朝日新聞社)にやり取りが収録されていますが、「羊」から「ねじまき鳥」に至る作品には特別な思い入れがあります。

『羊をめぐる冒険』は『ねじまき鳥クロニクル』に至る「村上春樹の絶頂期」のはじまりを告げる作品で、新年度の連載の最初に取り上げるに相応しい作品だと考えました。COVID-19が流行している今は、私たちが小説を通して「内的な冒険」に繰り出すのに絶好の時期だと思っています。

この作品は、離婚を経験したばかりの「僕」と耳専門の広告モデルを務める彼女が、星の柄を持つ羊と失踪した友人=鼠を探しに、北海道の開拓地へ向かう奇妙な物語です。羊と鼠を巡るファンタジーのような物語と「保守党の派閥」をまるごと買い取った、児玉誉士夫を彷彿とさせる「右翼の大物」の話がシンクロしている点が、この時期の村上春樹の小説らしいと思います。


村上春樹『羊をめぐる冒険』あらすじ

友人の「鼠」は小説の題材を探し求めて、北海道と思しき場所で撮られた「謎の羊」の写真を送ってくる。広告会社で働く「僕」は、その写真をPR誌に掲載したことで「右翼の大物」と目される人物に脅され、「謎の羊」を探す旅に送り出される。一匹の羊と社会の暗部で巨大な影響力を持つ人々との関係を巡る、冒険小説。野間文芸新人賞受賞作。

2020/04/02

明治大学・国際日本学部に移籍しました

2020年4月1日より明治大学・国際日本学部に勤務しています。
文教大学に在職中は様々な方々にご支援を頂き、厚くお礼申し上げます。

「沈黙の春」と言える状況ですが、教員として出来ることからはじめるべく、オンライン授業に向けた準備に取り組んでいます。早速、パソコンを拡張性の高いものに買い替え、メモリを16GB増設しました。

ポストCOVID-19の時代を見据えながら、これからもメディア研究や文芸批評の国際化に貢献したいと考えています。
今年は立教大学と青山学院大学でも兼任で授業を担当します。

https://www.meiji.ac.jp/nippon/teachingstaff/sakai_makoto.html