2023/08/29

ゲンロン 司馬遼太郎はいかに国民作家になったのか ──生誕100年で考える戦後日本の歴史観

 ゲンロンカフェで2023年8月30日19時より、立命館大学の福間良明先生と評論家の與那覇潤さんとトークイベントを行いました。表題は「司馬遼太郎はいかに国民作家になったのか ──生誕100年で考える戦後日本の歴史観」です。下のリンクで冒頭部分を視聴できます。

福間良明×酒井信×與那覇潤「司馬遼太郎はいかに国民作家になったのか──生誕100年で考える戦後日本の歴史観」 #ゲンロン230830

https://www.youtube.com/watch?v=JfwrWwaYHmY&t=243s


 ダイジェスト版の映像も作成いただきました。分かりやすくて面白い編集になっていると思います。

https://www.youtube.com/watch?v=T2xym5JQdQs

 與那覇さんの司会で、鋭いコメントを頂きながら、福間良明先生と共に、5時間半の時間をかけて充実した「司馬遼太郎論」を展開できたことを嬉しく感じています。ゲンロンの壁にはサインと一緒に、明治大学OBで、日本のプロレスの国際化に貢献したマサ斎藤の座右の銘「Go for Broke(当たって砕けろ)」を記しました。

 イベントでは福間先生の『司馬遼太郎の時代 歴史と大衆教養主義』(中公新書)の内容を踏まえて議論をしつつ、私からの話題提供として以下の点をお話しました。

1 司馬遼太郎と松本清張の国民作家としての比較

2 直木賞候補作を中心に、現代の時代小説・歴史小説の状況を踏まえ、司馬遼太郎作品の現代的な価値について

3 現在の国内外の社会情勢を踏まえ、歴史小説を読む意味について

 思えば、中学~高校にかけて歴史小説が好きだったこともあり、司馬遼太郎の代表作を刊行順に読みましたが、『戦艦武蔵』や『関東大震災』、『零式戦闘機』や『長英逃亡』などを記した吉村昭と比べると、その後、原稿の仕事で読み返すことはありませんでした。「夏休みの宿題」を頂いた気持ちで、当日の議論を楽しみに、準備に努めました。

 PPTの終盤で、ゲンロンの場への敬意を込めつつ、東浩紀さんの『観光客の哲学』や『ゲンロン戦記』の内容を踏まえた、歴史小説と観光、メディアに関する話もしました。非常に楽しい時間を過ごさせて頂き、登壇者のみなさま、ゲンロン・シラスでご参加を頂いた皆さまに感謝申し上げます。

ゲンロンHP

https://genron-cafe.jp/event/20230830/?fbclid=IwAR21I7f3jojizMe55wgoPsDu0e2KOppXexaB5J4gg4Plij450t-41pixdko


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 下は私の発表の冒頭部分です。3人のスライドについてゲンロンの担当者より「非常に濃い、まさに重量級の内容」という評価でした。福間先生と與那覇さんとの鼎談ということもあり、司馬遼太郎の批評として、かなり踏み込んだ内容になりました。



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 上のイベントの日にちょうどゲンロン・カフェで発売された、東浩紀さんの『訂正可能性の哲学』の初版1万部が完売間近だそうで、早くも増刷とのこと。出版社を持ち、イベントスペースやWeb上の動画プラットフォームを運営し、書き手として一線で活躍されているのがすごいです。西部邁さんや柄谷行人さん、福田和也先生など先行する世代の批評家とは異なる新しい形で、メディアと場を作り、ゲンロンらしい書き手と、熱意を持った聴衆を育ててられています。福岡での刊行イベントも楽しそう。

『訂正可能性の哲学』刊行記念 東浩紀、福岡でおおいに語る【ゲンロンカフェ出張版2023年秋】

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 書籍版の『松本清張はよみがえる』の初稿の作業がおおよそ終わり、加筆修正で連載時の約1.5倍の分量になる見込みです。スケジュールは未確定ですが、年明けぐらいの刊行目標です。加筆や、脚注付け、構成の工夫などに時間がかかりました。知己の皆さまのお仕事に刺激を受けつつ、その次の仕事も計画中です。

2023/08/14

世界文化遺産登録5周年記念「潜伏キリシタンをめぐる藝術祭」

 長崎県の文化振興・世界遺産課の主催で、2023年9月9日(土)に永田町の全国町村会館ホールにて「潜伏キリシタンをめぐる藝術祭」が開催されました。長崎県の職員の方によると、対面で約150人、オンラインを入れて340人ほどの参加者ということで、大盛況でした。

 私は昨年、九州芸術祭(長崎県の後援)で青来有一さんと対談を行なった経緯でお声がけを頂き、【文学×歴史】トークセッション「世界文化遺産の旅 潜伏キリシタンをめぐる長崎と天草の風土と文学」を担当しました。探検の部分で講演をされていた高橋大輔さんは、クレイジージャーニーなどに出演されている冒険家ですが、明治大学政治経済学部のOBだそうで、「植村直己(農学部OB)の影響がありましたか?」と聞いたところ、「明治には探検の伝統があるんです」という力強いご回答でした。

 世界文化遺産に登録された構成資産について、長崎で生まれ育った視点から紹介しつつ、遠藤周作の生誕100年ということもあり、代表作『沈黙』に重点を置いた話をしました。迫害による棄教を神は許すのかどうか。また司馬遼太郎の生誕100年でもあるので、『街道をゆく17 島原・天草の諸道』などの島原の乱、潜伏キリシタンをめぐる言説についても触れました。

 長崎の下町で生まれ育つとカトリック教会は身近な場所で、私の場合は幼稚園が修道会(都市部のミッション系の学校とは異なって、信仰に根差した慎ましい暮らしの延長にある場所)で、小学生の頃も修道院のシスターがボランティアで担当していた、英語などの学習会に参加して、カトリック関連の、古い子供向けの本をよく読んでいました。クリスチャンが多い「国境の街」で生まれ育った経緯から、遠藤周作や井上ひさしには、親近感を抱いてしまいます。

 私の担当セッションでは、拙著『現代文学風土記』で取り上げた青来有一さんの『人間のしわざ』(島原を舞台)『聖水』(潜伏キリシタンを題材)、中村文則さんの『逃亡者』(大浦天主堂を舞台)、村田喜代子さんの『飛族』(離島の隠れキリシタン信仰を描く)について述べました。

 東京藝術大学の古楽科の方々による天正遣欧使節(長崎空港の入り口には、彼らの像が置かれています)の音楽も素晴らしく、全体を通して良い回でした。

世界文化遺産登録5周年記念特別イベント「潜伏キリシタンをめぐる藝術祭」の開催【オンライン同時配信】

長崎県

https://www.pref.nagasaki.jp/object/kenkaranooshirase/oshirase/623506.html

共同通信PRWire

https://kyodonewsprwire.jp/release/202308097929

文学通信

https://bungaku-report.com/blog/2023/08/559913301550.html


 九州芸術祭文学カフェin長崎 2022年10月1日(土)開催(@長崎県美術館)「風土から現代日本文学を読む」(青来有一さんとの対談)

https://makotsky.blogspot.com/2022/08/in.html

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 久しぶりに長崎・外海の遠藤周作文学館に行き、生誕100年の展示をじっくり見学しました。出津教会の教会守の方からも詳しい案内を頂けて、良い時間でした。遠藤周作が描く「長崎」は、潜伏キリシタンが多く住んでいた北西の地域(旧西彼杵郡の外海町)に伸びている点が特徴的です。長崎の市街地から30キロ近い距離があります。平成の市町合併で、外海町が「長崎市」に編入されたことを改めて実感しました。

 これは佐藤正午が描く「西海市」が、平成の合併でできた西海市や、村上龍が描く「佐世保」と異なるのと似ています。昨年、青来有一さんとの対談でも触れましたが、地名に付随するイメージは作家によって大きく異なり、現実の地理空間とズレます。カズオ・イシグロが描く「長崎」や「上海」も同様です。

 例えば青来さんが描く「長崎」は、カトリック教徒が多く住む爆心地近くの浦上地区を中心とした「長崎」で、お会いしてお話する時にも感じますが、吉田修一さんが描く「長崎」の市街地から数キロ北にズレている印象を受けます(昨年の対談では、「長崎」に付随する長崎港・大村湾・外海・有明海の「海のイメージの差異」が重要という話になりました)。このあたりの詳細やマーティン・スコセッシの映画版についても「潜伏キリシタンをめぐる藝術祭」で触れる予定です。

映画『沈黙-サイレンス-』本予告

https://www.youtube.com/watch?v=0cUtOR-DL1A