2018/09/18

「小説トリッパー」(朝日新聞出版、2018年秋号)吉田修一『国宝』論

9月18日発売の「小説トリッパー」(朝日新聞出版、2018年秋号)に50枚と少しの批評文を書いています。タイトルは「『からっぽ』な身体に何が宿るか 吉田修一『国宝』をめぐって」で、「評論」の欄に大きく掲載を頂いています。全部で21ページ分の分量です。
https://publications.asahi.com/ecs/detail/?item_id=20368

吉田修一の『国宝』は、2017年元旦から2018年の五月末まで朝日新聞の朝刊で連載されていた作品です。長崎やくざの一家で育った喜久雄が、上方で修行を積み、女形として大成していく内容です。この作品を通して吉田修一は、零落していくやくざ一家の人々の姿と、関西の歌舞伎役者の人生を重ね合わせながら、彼らの人生の喜怒哀楽を、引用される義太夫狂言を中心とした歌舞伎の演目と共鳴させつつ、物語っています。

私が寄稿した批評文では『国宝』について、歌舞伎の近代史に触れつつ、近松門左衛門、福地桜痴、谷崎潤一郎、中野重治、村上春樹等の作品と比較しながら、吉田修一が『国宝』で意識的・無意識的に描こうとした(と推測される)問題について、踏み込んで論じています。歌舞伎の舞台裏を、男と女、有と無、生と死、といった人間の世界を秩序付けている二項対立が消失するような場所として描いている点が面白く、「人間国宝」と「人間天皇」の関係についても考えさせられる作品であると、私は分析しています。

「小説トリッパー」は朝日新聞販売所でも注文できます。9月21日頃から書店に並びはじめる『吉田修一論 現代小説の風土と訛り』(左右社、336ページ)と合わせて、ぜひご一読頂ければ幸いです。