2023/12/06

吉田敏浩『昭和史からの警鐘 松本清張と半藤一利が残したメッセージ』書評/週刊読書人

 週刊読書人に吉田敏浩『昭和史からの警鐘 松本清張と半藤一利が残したメッセージ』の書評を寄稿しました。担当の編集者からも好評でした。著者の吉田さんは明大文学部(と探検部)のご出身だそうです。

 松本清張が『現代官僚論3』の「防衛官僚論」(全集未収録)で展開した「三矢研究」を軸とした内容で、私は1971年の清張の講演録「世事と憲法」と半藤一利の『昭和史 1926―1945』を引きながら論じました。松本清張のノンフィクション系の仕事は、「観測気球」を上げながら世に埋もれた情報を集め、草の根レベルで国家と向き合うジャーナリスティックな姿勢が顕著で、良いです。

 核保有国の中国が日本の4.5倍の軍事費(2023年)を有している状況ですので、防衛費をGDP比2%に増やす政府方針については(明大法学部出身の三木武夫が、閣議決定でGDP比1%枠を定め、長年それをおおよそ守って来た歴史もあり)、私は「右から左」に受け流してほしいと考えています。「思いやり予算」も、「赤旗」によると、色々込みで8376億円(2023年)だとか。国連への分担金(2.4億ドル+PKO分担金5.2億ドル)を増やすなど、国際貢献が明確で、無理のない金額なら理解できるのですが。

 日本の平均年齢はすでに50歳に近く、高齢化率で世界一(2022年)、出生数も年80万人を割り込み、イノベーションも出遅れ、国際化も進展しない中で、2027年にNATO基準で12兆円超えの実質的な軍事増税というのはさすがに。。「パナマ文書」が示した富裕層や多国籍企業への国際課税、人口減と技術革新に見合った行政のスリム化、在留資格や定住者・永住者の要件の緩和など、他の政策で「大胆な改革」を期待しています。

 それはさておき、書評の書き出しは下です。

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 早稲田大学に在籍していた1990年代末、浅田彰など左派の知識人の講演会で質疑を行うと、高い頻度で「革マル派」の人から勧誘を受けた。今の大学には良くも悪くも「政治の臭い」が薄い。転機となったのは、2001年の米国同時多発テロだったと思う。テロ対策の名の下で、国防・治安の強化や個人情報の収集が当たり前のものとなり、政治が「マイノリティの排除」と紙一重の危うさを孕むようになった。この点について吉田敏浩は、本書で次のように述べている。「アメリカの対中国封じ込め戦略と軍事費倍増の要求に従って、日米同盟という軍事同盟の強化と、専守防衛の枠を踏み越える大軍拡を進めたら、東アジアでの果てしない軍拡競争と対立の激化を招く」「国家機関の国民・市民に対する監視・情報収集は、プライバシーの侵害であるうえに、個々人の「意思表示、意見表明」を萎縮させ、言論表現の自由や集会結社の自由などを侵害する」と。正論であろう。<続く>

https://jinnet.dokushojin.com/products/3518-2023_12_01

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 今学期のゲスト講師は、昨年に続き、批評家の宇野常寛さんにお越し頂きました。「松本清張はよみがえる」の連載で、高度経済成長以後の日本のメディア史について考えることが多かったので、今回は宇野さんにメディアでの執筆・運営経験を踏まえつつ、批評メディアの現在と将来についてお話を頂きました。出版不況の時代を新しいことにチャレンジしながら潜り抜けてきた同世代の宇野さんらしい貴重なお話で、参加した学生と共に楽しい時間を過ごすことができました。

 年内はこの書評で掲載は終わりで、先月は文芸関連の裏方の仕事と、電通からの依頼で某社の海外CMに関係する英語レクなど。年明けは、直木賞予想対談と、科研の国際学会発表、その間に書籍版の『松本清張はよみがえる』の作業という感じです。年始に骨折した膝のリハビリを継続しつつ、無理のない仕事量で年末を迎えています。

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 愛嬌と俊足と宮沢賢治の暗唱が取り柄で、宿題をしない息子が、公園で滑って眉間を割り、5針を縫う怪我で「旗本退屈男」のような傷にならなかったのが不幸中の幸いでした。眼を怪我しなかったことを天啓と思い、任天堂switchとYouTubeに一日の大半を費やす人生を改め、さかなクンに憧れ、海洋生物学者を志した幼年時代を思い出してほしいです。魚の淡水養殖の研究に励み、食料問題、環境問題、国連改革などに貢献してほしいです(まだ小1ですが)。