2023/07/13

IAMCR(国際メディア・コミュニケーション学会)@リヨン大学

 IAMCR(国際メディア・コミュニケーション学会)@リヨン大学での発表が無事に終わりました。スペイン、香港、台湾の研究者とのセッションで、地域ジャーナリズム研究の科研費の成果ということで、名古屋大学の小川先生と発表をご一緒しました。この研究テーマはひと段落という感じです。国際的な展開も先々、期待できそうです。




 オープニングは、マルクス主義批評を現代的な形で展開するChristian Fuchsで、相変わらずルカーチやベンヤミンなどの古典的な理論の参照の仕方に切れ味があり、何度も笑ってしまいました。彼とは以前にDigital Labour and Karl Marx などの著作の日本語訳の話をしたこともありましたが、翻訳に時間がさけず、日本で紹介できなかったことを残念に思っています。
 conferenceディナー(自費)の会場は、ローヌ川沿いのMusée des Confluencesで、日本からは元慶應SFCの伊藤陽一先生をはじめ10名ほどの参加でした。
 

 2023年6月下旬のフランス各地の暴動の影響で、リヨンの中心部でも写真のようにATMが壊されていました。メインストリートのATMの数台がこういう状況で、窓ガラスも割られた店舗が点在する状況。様々な背景があるにしても、短時間でコミュニティが破壊される事件が、新型コロナ禍を経て頻発していることを実感します。

 日本の現代文学・文化の調査で訪れたパリの国際日本文化会館では、土門拳の写真の展示をしていて多くの来場者で賑わっていました。広島の被爆に関する写真も重点を置いて展示していました。酒田の土門拳記念館の展示写真から良いものを厳選した印象。

 
 パリの中心部から少し離れた場所にあるバルザックの家の展示も、カフェの運営やグッズなどの販売も含めて日本の文学館の参考になると思いました。ドイツのゲーテハウス等と比べると、観光地としての「展示価値(ベンヤミン)」は弱いのですが、一連の「人間喜劇」の登場人物たちが出没しそうな商店街の先にあり、往時のパリの下町の雰囲気も体感できて良かったです。


 骨折のリハビリをしながら調査を継続しつつ(階段の昇り降りがまだまだ大変)、移動時間など合間に事務仕事や来月のゲンロンのイベントの準備など、溜まった仕事を片付けています。猛暑の夏を、心身ともに健康に乗り切りたいものです。

 と書いた直後に、シャンベリー・トリノ間のTGVが大幅に遅延した上、イタリア国境で車両トラブルが生じ、アルプスの山中で逆方向から来たTGVに乗り換える、という面白いオペレーションで、自分の指定座席を確保する必要に。権利は柔軟かつ確実に主張しないと維持できないのが、懐かしのイタリア。学生によく話すTipsですが、イタリアでは渋滞時に、車の窓から手を出して感情表現したほうが合流しやすい、のも似た理由だと思います(個人差があります)。
 とはいえアルプスを越えてトリノを訪れる価値は十分にありました。ニーチェが発狂したことで知られるカルロ・アルべルト広場の近くの発酵ピザと、5種のジェラートが最高に美味しかったです。下の写真はイタリアの映画の発祥地・トリノにある国立映画博物館で、映画の博物館としては世界最大級。新しいテクノロジーを織り込んだ「視覚的な展示」が魅力的で、メディア文化論に関する授業用写真を撮りまくりました(私の授業PPTでは、世界のメディア関連の博物館で撮影した、著作権上の問題のない写真を使用しています)。140年近く前に建造された天井のドームを繰り抜いてワイヤーを通し、映画史を俯瞰しながらエレベーターで展望台に上がることができるという、夢のような空間。イタリアらしく、ヴィスコンティやアントニオーニ、フェリーニなどの大御所から、パゾリーニのような奇才の作品展示もあり。井上ひさしが『ボローニャ紀行』で記していますが、文化と歴史と観光を軸にコミュニティの保全と刷新を図るイタリアの街から学ぶことは多いと思います。