2017/05/29

「問題複合体を対象とするデジタルアース共同利用・共同研究拠点」(文部科学省、中部大学中部高等研究所国際GISセンター)との共同研究に採択されました

 研究題目は「平成期の日本の自然災害に関する新聞報道の定量的な分析と地理空間上の報道分布に関する研究」です。研究目的と研究方法は以下の通りで、主としてゼミの4年生と研究課題に取り組むことになります。

平成期の日本の自然災害に関する新聞報道の定量的な分析と地理空間上の報道分布に関する研究 酒井信

研究目的
 本研究では自然災害を報道する新聞の報道量(報道数、文字数)及び地理空間上の報道分布と現実の災害の被害を比較分析することを目的とする。災害が生じた場所に関する報道量(言及数)は、一括りに「被災地」と呼ばれる場所の中で格差が生じる傾向にある。例えば2011年の東日本大震災に際しては福島・宮城・岩手の三県の特定の自治体に報道が集中し、相対的にニュース価値の低いと判断された茨城や千葉などの自治体の災害報道は少なかった。一般に自然災害に関するメディア報道においては、被災を象徴する場所に関する報道については繰り返し報道される傾向にあるが、特徴に乏しいと判断された場所の報道については減少する傾向にある。本研究では、このような新聞の報道量(報道数、文字数)と地理空間上の報道分布を分析することで、被災情報の伝達過程で生じる情報格差について可視化し、その格差が生じる要因について現実の被災状況と比較しながら、災害時の情報公開のあり方について考察することを目的とする。

研究の具体的方法 
 第一に本研究では日本の全国紙四紙の新聞記事データベースを使用して、平成年間の自然災害に関する新聞報道を人手で調査し、1自然災害の種類 2記事内の地名(都道府県、市町村、町名) 3関係団体・人名 4発生日時 5文字数 6キーワード を抽出した上で、自然災害に関する新聞報道のメタデータを作成する。第二にメタデータを抽出した各記事を対象に、三階層の地名(都道府県、市町村、町名)に基づいてマッピングし、新聞報道の質と量と分布を俯瞰的に可視化する。第一の研究プロセスは文教大学酒井信ゼミナールで行い、第二の報道分布のデジタルアース上への可視化については中部大学高等研究所の協力を仰ぐ。その上で中部大学高等研究所及び文教大学酒井信ゼミナールの共同で、第三に、可視化した自然災害に関する新聞報道量(報道数、文字数)及び地理空間上の報道分布を、現実の災害の被害と比較分析し、被災に関する情報伝達のプロセスで生じる問題点を明らかにする。

問題複合体を対象とするデジタルアース共同利用・共同研究拠点(IDEAS)
http://gis.chubu.ac.jp/


2017/05/27

メキシコ・シティ

 カンファレンスまで時間があったので、メキシコ国立自治大学(UNAM)の知人を訪ねました。写真はフアン・オルゴマンのモザイク壁画で覆われた中央図書館で、アステカ文明の繁栄とスペイン植民地時代の圧政を、北面と南面で対照的に表現しています。


 UNAMはアメリカ大陸で2番目に古い1551年の開学で、メイン・キャンパスは2007年に世界文化遺産にも登録されていて、オクタビオ・パスのようなノーベル賞作家(詩人・批評家)も輩出しています。訪れたことのある大学の中では、おそらくモスクワ大学に次いで広く、1968年のメキシコ五輪の競技場もキャンパス内で、複雑なバス路線が張り巡らされています。街の中心部からやや離れていますが、地下鉄で5ペソ(約30円)で行くことができます。大学近くの屋台のご飯も安くて美味しかったです。

 メキシコ・シティは、何より壁画が魅力的です。例えばメキシコの教育省は、ディエゴ・リベラが描いたメキシコ革命をテーマとした壁画で覆われていて、今でも丁寧な補修が施されています(写真)。


 昨年、デトロイトで、リベラの「デトロイト産業」をみて感銘を受けたのですが、メキシコ・シティにあるリベラの壁画は更にスケールが大きく、メキシコの地に根を張ったオーラと説得力が感じられます。
 宮殿に描かれた「メキシコの歴史」(写真)や公園横の壁画館の「アラメダ公園の日曜の午後の夢」も一見の価値があります。リベラの作品は、庶民の日常生活を丹精に描いているのが特徴で、バルザックやドストエフスキーの作品のように、都市に集まる雑多な人々の「人間臭さ」が壁面に横溢しているので、インパクトが強く、感動が尾を引きます。


 その他、印象に残ったのは、レフ・トロツキー博物館。街の中心部から地下鉄を乗り継いで20分、最寄り駅から徒歩20分という場所にあるため、観光客はあまりいないのですが、トロツキーの生活感あふれる写真と、スターリンの刺客に備えて要塞化した自宅の展示は、見応えがありました。リベラもトロツキーに傾倒しています。トロツキーはメキシコ郊外で暗殺された、という記述をよく目にした記憶がありますが、郊外というほど中心部から遠くもない場所でした。
 展示を見ていると、ロバート・キャパの写真のような「熱情的な革命家」の姿とは異なるトロツキー像が浮かび上がってきます。死の直前、トロツキーは息子を暗殺され、スターリンを批判する本を書いていたところ、内通した刺客にピッケルで頭を刺されて死に至るわけですが、死の間際の生々しい写真も記録されています。大学院の時に『裏切られた革命』を読みましたが、ロシアを追われメキシコに流れながら執筆を重ねたトロツキーの苦労が、写真の展示と要塞化された自宅を通して実感できた気がします。


 ロシア革命に関わる文化人の博物館では、モスクワのマヤコフスキー博物館が群を抜いて展示が充実していましたが、トロツキー博物館も、メキシコという土地らしい展示で味わいがありました。思想家の博物館は展示が難しく、過去に観た中ではトリーアのカール・マルクス・ハウス(と市立博物館の展示)が、様々な工夫を凝らしていて面白かったですが、トロツキー博物館は、写真と住居の展示を中心とした落ち着いた内容で、周辺の街の雰囲気と調和していて良かったです。

 メキシコシティの中で最も感銘を受けたのは、ベジャス・アルテス宮殿で上演されている「Folkloric Ballet of Mexico」。メキシコの様々な時代の舞踊と音楽を現代風にアレンジして1時間半ぐらいに集約した「舞踊と音楽のショー」です。トリップアドバイザーの英語の口コミで大絶賛のコメントが多かったので、試しにチケットを購入したところ、期待以上の内容でした。
 モンゴルのウランバートルで舞踊と音楽を観たとき、その多様性にモンゴル帝国の統治範囲の広さを感じたのですが、メキシコの場合は、ユカタン半島からグアナファト州にかけて多様な文明が存在していて、それがスペインの舞踊と音楽と融合しているのが面白いと思いました。
 日本で言うとコクーン歌舞伎と京都のギオン・コーナーを混ぜ合わせたような舞台ですが、舞台も広くて演者も多く、舞踊と音楽に確かな教育と競争が行き届いていることが実感できました。

2017/05/24

ゼミ冊子「メディア表現」第一号を発刊しました

文教大学酒井信ゼミ制作の冊子「メディア表現」第一号を発刊しました。104ページの分量で、メディアに関する様々な学びについて、学生が取材し、考察した内容が掲載されています。「100ページを超える分量で、『足で書く』取材記事と、アンケート分析を主とした冊子を作ってほしい」という私からのオーダーに、ゼミ生たちは頑張って応えてくれたと思います。
既に冊子を読んで頂いた取材先の方々からも好評で、制作に関わった4年生は「厚み」のある冊子を「名刺代わり」に、就職活動を頑張っているようです。

文章の添削もなかなか大変でした。ゼミ合宿の移動中も「赤入れ」をしながら修正作業を行っていたため、移動の電車やバスでゲラが舞い散る場面もありました。「締め切りに追われて文章を書くこと」の緊張感と責任感を、ゼミ生に身に染みて学んでもらえたのではと思っています。

誌面には、教員の人生遍歴を巡るインタビューや、「メディアの裏側」に関するゲスト講義、在校生や卒業生の「本音」を引き出すインタビューなど、様々な読み所があります。
アンケート調査とその分析内容も面白く、家族とのコミュニケーションの状況、恋人の有無、メディアの接触頻度、幸福度の格差など、非掲載のものも含めて良い内容でした。

「メディア表現」はオープンキャンパスや学園祭など、大学の行事で、メディア表現学科の教育活動の紹介を趣旨として配布します。年一回の刊行予定です。将来的にはウェブ・コンテンツとしての展開も見込んでいます。










文教大学HPでの紹介記事