2024/01/28

與那覇潤著『危機のいま古典を読む』書評/産経新聞

 産経新聞朝刊(2024年1月28日)に與那覇潤著『危機のいま古典を読む』(而立書房)の書評を寄稿しました。表題は「コロナ禍の時代批評」です。昨年末にご恵贈頂いていて、2022年に亡くなった中井久夫の批評から始まっている点に関心を持っていた所、年明けに書評の依頼を頂きました。文化部の担当記者からも好評でした。

 近年、與那覇さんや斎藤環さんが中井久夫を再評価されているのが、学部時代に臨床心理学や文化人類学を学んでいた身として嬉しいです。『いじめの政治学』や『災害と日本人』なども含めて、人類学的な広い視野の下で、臨床医として心身のメカニズムを探求した文章に、敬意を抱いています。人類は相応に狩猟採取の時代が長く、微かな兆候に過剰な意味を見出す「微分的な認知」のあり方を、誰しもが多かれ少なかれ引き摺っているのだと。

 その他、與那覇さんの本では、松本清張の『実感的人生論』や中野重治の「吉野さん」、村上春樹の『世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド』について論じた箇所についても、何か書けそうな感じがしましたが、新聞書評の文字数でしたので、最初と最後の文章にのみ言及しました。『松本清張はよみがえる』の次の本の準備(1年ぐらいの予定、戦後日本のメディア史関連)に取り組んでいることもあり、前にアステイオンに寄稿した『平成史』の書評も含めて、書きながら学ぶことが多かったです。

『危機のいま古典をよむ』與那覇潤著 コロナ禍の時代批評 評・酒井信(明治大准教授)

https://www.sankei.com/article/20240128-F7S7AX2OWFLRLM5P44JCMI7QMA/


WEBアステイオン(Newsweek日本版)

氷河期世代が振り返る平成──「喪の作業」としての平成文明論

https://www.newsweekjapan.jp/asteion/2022/08/post-71.php

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 今年のSuper Bowlは、Kansas City ChiefsとSan Francisco 49ersの対戦@Las Vegasです。QBは昨年、左足を引き摺りながらSBに勝ったMahomes (過去5年で4回目)と、Iowa州立大出身で、ドラフト最下位指名ながら、2年目、24歳でSB出場を果たしたBrock Purdy。新しい時代の到来を感じさせる、近年のSBで最も楽しみな試合です。データではMahomes-Chiefsが有利ですが、Purdy-49ersは毎日成長する育ち盛りの子供みたいな感じ。

49ers and Chiefs Super Bowl Rematch in Las Vegas Hype Video

https://www.youtube.com/watch?v=6IJy8Uma3uQ

San Francisco 49ers vs. Kansas City Chiefs | 2023 Super Bowl Game Preview

https://www.youtube.com/watch?v=kLDTSj6GRvA&t=171s

 Purdyは高校生のような外見ながら、高い判断力と強いメンタルで、昨年の終盤にチャンスをつかみ、次々とリーグを代表するQBを圧倒して記録的な連勝。今年49ersは24歳のPurdy中心にチームを再編成して、リーグトップの戦績でプレイオフへ。NFC championshipでも、前半で大差を付けられますが、Purdyはベンチでニコニコしながら、チームメイトの力を引き出して大逆転。メディアもファンも驚きが収まっていない状況です。時給5ドル50セントのスーパーマーケットの店員からSBに出たKurt Warnerと似たタイプですが、何しろ若いし、謙虚で冷静。Mahomesに勝つと、一気に2020年代のアメリカの顔になりそう。49ersはTight EndのKittleや「世界で最も有名なクリスチャン」、Christian McCaffreyをはじめ他の選手の調子も良く、Upsetもありそう。

The story behind Brock Purdy and the most relevant Mr. Irrelevant | NFL on ESPN

https://www.youtube.com/watch?v=a5eByg1qBAs&t=10s

 ただMahomes-ChiefsはDynastyと呼ばれている通り、ちょと前にDynastyと呼ばれたTom Brady-Patriotsと同じくチームとして完成度が高いです。NFLはサラリーキャップ制なので、いい選手はどんどん流出するのですが、Mahomes-Chiefsは選手が入れ替わってもGovernanceに安定感があります。昨年からTight EndのTravis KelceがTaylor Swiftと交際中なのも話題。昨年KelceはSaturday Night Liveでもホストを務め、ホワイトハウスでもBiden大統領と絡んで、絶好調。Mahomesと共に、Kansas Cityの価値を高めています。

Chiefs, Patrick Mahomes, Travis Kelce present President Biden with jersey at the White House

https://www.youtube.com/watch?v=zmPYBKgBei4

 Mahomes-Kelce-SwiftのホットラインはSBでも熱そうです。ハーフタイムショーのUsherよりも、客席のTaylor Swiftを観たいファンが多そう。Swiftと一緒に映ることの多いKelceの母は、兄のJason Kelceも一流のNFL選手に育てた、アメリカでも有名なBig Mamaの一人(Swiftは母Kelceより背が高い)。

Taylor Swift is a regular at the Chiefs and Travis Kelce games!

https://www.youtube.com/watch?v=0o1tgjwnjFY

 KelceとKittle、両チームのTight Endが注目されるSuper Bowlですが、TEが活躍する現代文学と言えば、ジョン・アーヴィングの名作『ガープの世界』です。アーヴィングは、49ersのKittleと同じアイオワ大の出身で、同大で無名時代のカート・ヴォネガット・ジュニアに指導を受けています(素晴らしい師弟関係)。ジョージ・ロイ・ヒルの映画版「ガープの世界」では、LGBTQの元プロTEのロベルタを、ジョン・リスゴーが見事に演じています(要所で炸裂するロベルタのTEらしいタックルが映画版の見どころ)。ロビン・ウィリアムズも良いです。

The World According to Garp - Original Theatrical Trailer

https://www.youtube.com/watch?v=VmRPh1xwab8

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 期末レポートの採点を終えました。提出率も高く、いい内容が多かったです。特に『現代文学風土記』を参考に、全国各地を舞台にした現代小説から好きな作品を選び、自由な論点で分析するレポートに学生の個性が出ていて面白かったです。東野圭吾さんや湊かなえさん、吉田修一さんや桜木紫乃さんの小説が人気で、現代小説への関心は高いと感じました。