2025/05/25

「松本清張がゆく 西日本の旅路」第17回 「火の記憶」 壇ノ浦古戦場跡(山口県下関市)

 西日本新聞の連載「松本清張がゆく 西日本の旅路」第17回(2025年5月25日)は、推理小説の習作となり、後の「張込み」を準備した3作目の「火の記憶」を取り上げました。担当デスクが付けた表題は「不幸な運命に抗う女性描く」です。

 松本清張のデビュー作「西郷札」は1951年3月に「週刊朝日別冊・春季増刊号」に、井伏鱒二、大佛次郎、尾崎士郎、吉川英治、長谷川伸など、名だたる大作家と共に掲載されています。この中で次の仕事を斡旋したのが、直木賞作家の木々高太郎でした。清張は木々の期待に応えるべく「火の記憶」の元となった「記憶」を執筆します。

 木々は清張の予想に反して「記憶」を純文学系の「三田文学」に掲載し、清張は「とまどった」と述べています。このため清張は、純文学系の作品として4作目の「或る「小倉日記」伝」を執筆し、芥川賞を獲得します。異なるジャンルの先輩・木々の推薦を受けたことで、清張は作風をひろげることに成功したわけです。

 3作目の「記憶」が「清張作品の幅を拡げた意味」については、従来あまり着目されてきませんでした。ただ「松本清張研究 第十四号(特集・初期短編小説)」で、小森陽一先生が「記憶」を「精神分析的推理小説」として位置付け、大衆文学史の中で高く評価していたり、松本常彦先生が、清張の自伝的小説の親子の心情描写に、事実と虚構を超える固有性を見出しています。膨大な清張作品を読み込んだ上での各作品の評価が、重要だと実感しています。

 何れにしても松本清張の「初期短編」は依然として再評価が必要で、教育の場でも活用できるいい作品が多いと思います。

https://www.nishinippon.co.jp/item/1355353/

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 WrestleMania 41をダイジェストでみていたら、同世代のRandy Ortonが20回目の出場で、粋な仕事をしていました。ヒールですが、プロレス一家の三代目らしく、客への気配りと役どころを弁えたプロ意識の高さが魅力的。Kevin Owensが欠場して代役を立てることになった経緯も、丁寧に説明しています。「誰が来るんだ?」と戸惑うムーブで、地元テネシーの後輩、Joe Hendryを抜擢という、心遣い。Joe Hendryは、ふだんはLocal Heroというアングルで、WrestleManiaの百分の一ぐらいの箱とお米(ギャラ)で、仕事をしています。隣で一緒に観ていた息子に、今から食事を倍ぐらいとって、筋トレに励むのはいいが、プロレスの道は、批評の道と同じく甘くはないぞ、と言ったら、どっちも無理と、照れてました。

https://www.youtube.com/watch?v=E6GG_j3PDVA

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 Alasdair MacIntyreが亡くなりました。手元にある『美徳なき時代』から、マッキンタイアの思想を特徴付ける一節を引くなら、「生きた伝統」に関するバーク批判の部分ですかね。マルクス主義の道徳的欠如を指摘する一方で、アリストテレスの参照が多い中、マルクスやエンゲルス、サルトルなども参照していたり、「右」や「保守」というよりは「スコットランドのコミュニタリアン」という印象の思想家でした。個人的には思想にも文学と同様に、世代的な限界を感じてしまうので、カントやロールズの議論については、サンデルの議論の方が深みがあり、多文化主義的な観点からも、より実践的だと思いますが、美徳や共通善をめぐる考え方には、マッキンタイアらしい「思想の訛り」がありました。

「私たちはここで、<伝統>という概念を保守的な政治理論家が用いるときのイデオロギー的用法によって迷わされがちである。そうした理論家たちの特徴はバークに従って、伝統と理性、および伝統の安定性と抗争を対照させてきた。その二つの対照とも私たちの理解を曇らせるものである。というのは、あらゆる思考は、ある伝統的な思考様式の文脈の内部で行われ、その伝統の中でそれまで思考されてきたものの限界を、批判と考察をとおして超越していくからである。<中略>

 伝統への適切な感覚は、過去のおかげで現在役立てうるものとなった未来の諸可能性を把握することに発揮されるのだ。生きた伝統は、まさに未完成の物語を続けているがゆえに、未来が何らかの性格を所有する限りは、過去に由来するところの限定され、かつ限定可能な性格を所有している未来に直面するのである」 

篠﨑榮訳『美徳なき時代』「諸徳、人生の統一性、伝統の概念」みすず書房

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 Nintendo Switch 2が話題ですが、子供に買い与えるか迷っています。ゲームはパソコンを推奨しており、マイクラもJava版でカスタマイズしながら、システム設計も含めて楽しんでほしいものです。スマホのゲームも同様で、たとえばPokemon Goも、物理的に移動するだけではなく、GPS情報をカスタマイズしてみるなど、色々と試してほしいところ。とはいえ、Splatoonの新作が出ると子供の圧力(一時的に成績が上がり、答案を突き付けられるなど)に屈っしてしまいそう。Switchはリングフィット・アドベンチャーを試すために買いましたが、Switch 2で続編が出ると買ってしまうかも。ゲームはフィットネス系にしか興味がないですが、老後は認知機能の衰えを緩和するために、高橋名人のスイカ割り16連射に、再チャレンジしたいと考えています。

2025/05/01

PLANETS SCHOOL「戦後80年を小説から読む」

 2025年5月8日に、宇野常寛さんのPLANETS SCHOOLで「戦後80年を小説から読む」という講座を担当します。柄谷行人・江藤淳の批評を切り口として、谷崎潤一郎・川端康成・太宰治・坂口安吾・三島由紀夫・遠藤周作・松本清張・司馬遼太郎・村上春樹の文章を取り上げながら、戦後日本の文芸史について私見を述べます。先日の楽天大学ラボの動画「「戦後思想」再考―江藤・吉本・三島から読み解くこれからの生き方」が好評だったこともあり、この話を展開した内容になります。ご関心が向くようでしたらぜひ。

PLANETS SCHOOL 教養講座 第四期

https://community.camp-fire.jp/projects/65828/activities/690807


楽天大学ラボ 「戦後思想」再考―江藤・吉本・三島から読み解くこれからの生き方|先崎彰容×酒井信×宇野常寛

https://www.youtube.com/watch?v=fIKlTogXi64&t=3635s