西日本新聞の連載「松本清張がゆく 西日本の旅路」第19回(2025年6月28日)は、鉄道旅行の魅力を伝えつつ、「点」としての情報を「線」へと繋げながら、事件の真相に迫った名作『点と線』を取り上げました。担当デスクが付けた表題は「映画化意識した「絵」になる傑作」です。
『点と線』は、福岡の香椎海岸で男女の死体が発見される場面から始まります。心中物は、近松門左衛門の「曽根崎心中」をはじめとして、長らく文楽や歌舞伎の人気演目として親しまれてきました。男女の心中は、枝葉の付いた噂話を生みやすく、物事の本質を覆い隠すのに適しています。
この小説で清張は「心中物」に偽装した事件の「アリバイ崩し」を通して、心理劇として事件の真相を暴き、読者にカタルシスを与えることに成功しています。『点と線』は高度経済成長期を代表する社会派ミステリの傑作です。
次回から「松本清張がゆく 西日本の旅路」は隔月の掲載で文化面に移動となります。松本清張については別途、年内に新書を刊行する準備を進めていますので、こちらにもご期待ください。
https://www.nishinippon.co.jp/item/1370133/
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第173回直木賞の候補作、作品の多様性、表現の幅の広さともに、充実しています。日本文化の核を成す、文芸の世界で次々と新しい才能が開花している現状は、慶賀すべきことです。直木賞の予想対談も5年目で、かなりの分量の候補作を読んでいますが、楽しみながら取り組んでいます。
大ヒット中の李相日監督、吉田修一原作の映画「国宝」については、近々、オンラインでお話しする予定です。「国宝」は歴代興行収入の上位に入る勢いで、文学作品を原作とした映画としても、記録的な大ヒット作になると思います。小説トリッパーに寄稿した「国宝」論(55枚)や、「文學界」掲載の吉田修一論の単行本未収録部分(150枚ほど)、映画パンフレットや文庫解説、「国宝」以後の文芸誌・新聞の書評など(50枚ほど)に加筆して書籍にまとめようと考え、少しずつ作業しています。