宇野常寛さん司会の「遅いインターネット会議」で新著『現代文学風土記』(西日本新聞社)についてお話をします。ご関心が向くようでしたらぜひ。オンライン配信もあります。
2022年7月5日に有楽町のSAAI Wonder Working Communityで19時半からです。オンライン参加が1000円、会場参加が3000円です。宇野常寛さんとは、朝日新聞社「論座」の「ゼロ年代特集」で誌面上でご一緒したことはありましたが、お会いするのは初めてで、楽しみにしています。
酒井信/文芸批評・メディア文化論 明治大学/ msakai@meiji.ac.jp/ 『松本清張はよみがえる』『現代文学風土記』など
宇野常寛さん司会の「遅いインターネット会議」で新著『現代文学風土記』(西日本新聞社)についてお話をします。ご関心が向くようでしたらぜひ。オンライン配信もあります。
2022年7月5日に有楽町のSAAI Wonder Working Communityで19時半からです。オンライン参加が1000円、会場参加が3000円です。宇野常寛さんとは、朝日新聞社「論座」の「ゼロ年代特集」で誌面上でご一緒したことはありましたが、お会いするのは初めてで、楽しみにしています。
西日本新聞朝刊(2022年5月24日)に「「現代ブンガク風土記」連載を終えて」という原稿を寄稿しました。書籍版のあとがきで「限られた場所に根を張って暮らし、限られた人間と過ごす時間に意味を見出す人間は、有限な時空間を生きる、不完全な存在者である」と述べましたが、平等に人間が不完全であることが、日々の生活に彩りを与え、情感の豊かさや、十人十色の個性を形作り、文化の多様性を生み出しているのだと思います。書籍版『現代文学風土記』をどうぞよろしくお願いいたします。
「アステイオン96」(編集:サントリー文化財団・アステイオン編集委員会、発行:CCCメディアハウス)に、「「喪の作業」としての平成文明論」という原稿を寄稿しました。與那覇潤さんの『平成史』に関する10枚ほどの論考です。喪の作業(the work of mourning)は、『平成史』の中で言及されているフロイトの概念(人間が喪失を乗り越えるための心的プロセス)で、1月に入稿した私の原稿では本文の内容を踏まえつつ、デリダのフロイト解釈(と脱構築批評)を念頭に置いて書きました。原稿のご依頼を頂いた編集委員の先生方に心より感謝申し上げます。
特集の「経済学の常識、世間の常識」など、興味深い原稿が数多く収録されています。長期的な視点を有する様々なテーマの論考を掲載した、素晴らしい雑誌だと思います。
ちょうど平成期の文学作品を多く取り上げた『現代文学風土記』(西日本新聞社)を出版するタイミングだったので、よい機会でした。私も平成20年に『平成人(フラット・アダルト)』(文春新書)という本を書き(1万部は売れ、いくつかの大学入試でも使って頂きましたが)、平成という時代と価値観の変化に思い入れがあったので、與那覇さんの『平成史』とアステイオン誌上で向き合うことができ、嬉しく感じました。『平成史』(文藝春秋)は、細かな論点も含めて、平成期の様々な出来事や価値観の変化について深く考えさせられる良書です。
目次(2022年5月11日)
https://www.hanmoto.com/bd/isbn/9784484222103
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「WEBアステイオン」(Newsweek Japanのサイト内)に、「氷河期世代が振り返る平成――「喪の作業」としての平成文明論」とタイトルを変更の上、公開頂きました。紙媒体とWEB版を上手く運用していて、「アステイオン」は素晴らしい雑誌だと思います。
WEBアステイオン 氷河期世代が振り返る平成──「喪の作業」としての平成文明論
日本新聞協会が発行する「新聞研究」の2022年 5月号(No.844)に「ウェブで記事の多メディア展開を─創意工夫で開く雑誌ジャーナリズムの将来」という原稿を寄稿しました。「新聞研究」はメディア史について教えてくると出てくる1947年に創刊された月刊誌で、GHQの統治下で作られた代表的な雑誌の一つです。新聞社やテレビ局の記者やジャーナリストが執筆者の大半で、メディア報道やメディアリテラシー、メディア環境のあり方について各社の利害を超えた立場から批評しています。私は「雑誌ジャーナリズムの将来」について書きました。特集は「ウクライナ侵攻と報道の視点」です。
ご関心が向けば、図書館などでご一読を頂ければ幸いです。下記のような書き出しで始まる10枚と少しの原稿です。
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現在、雑誌ジャーナリズムが直面している問題の要点は、①言論の極端化をめぐる問題と、②発行部数の減少と収益化の問題の二つに集約できると私は考える。前者の言論の極端化をめぐる問題については、オンラインでより大きな問題になっているため、雑誌記事、新聞記事の区別に関係なく、Web上で記事を配信する上で重要な問題だと言える。
例えばハーバード大学ロースクール教授のキャス・サンスティーンは、″Republic.com.″や″Going to Extremes: How Like Minds Unite and Divide″などの著作で、オンラインの世論の極端化と社会の分断の関係について様々な分析を行っている。彼は「サイバーカスケード」という概念(サイバー空間上の滝という意味)を用い、類似した考えを持つ人々がWeb上で小さな滝が合流するように結び付き、短時間で大きな流れを作り、時に排外的な世論を形成することを危惧した。米国の活動家・起業家のイーライ・パリサーは、″The Filter Bubble: What the Internet Is Hiding from You″で「フィルターバブル」という概念(情報のフィルターが泡状に世界を覆っているという意味)を用い、オンラインで人々が、過去の履歴を解析され「見たい情報しか見ない」状態に置かれ、社会や世論の分断が促進されていることを危惧した。……
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「新聞研究」2022年 5月号(No.844)目次 特集「ウクライナ侵攻と報道の視点 第一回」
https://www.pressnet.or.jp/publication/kenkyu/220501_14632.html
「現代ブンガク風土記」(最終回 2022年5月1日)では、吉田修一の『ミス・サンシャイン』を取り上げました。担当デスクが付した表題は「取り返しのつかない経験」です。本作でいう「取り返しのつかない経験」とは長崎の原爆災害のことで、第1回で取り上げたカズオ・イシグロの『遠い山並みの光』から連続するモチーフです。つまりこの連載は、長崎の原爆災害(「コミュニティの死と再生」)について取り上げた作品で始まり、同じテーマを継承した作品で終わる内容だったことになります。
吉田修一のインタビューでの発言(文春オンライン)を踏まえると、本作は1945年にアメリカの「LIFE」誌に掲載された「ラッキーガール」と呼ばれた一枚の写真を原点に据えたものです。この写真は、長崎の原子野で防空壕から一人の女性が顔を出し、笑っている姿を撮影した有名なもので、後にこの女性が原爆症で亡くなったことでも知られています。この小説は、長崎で被爆した彼女の「他にあり得たかも知れない人生」をつづった論争的な作品と言えます。
長崎出身の一心が、久しく表舞台に出ていない大女優・鈴さんの家に出入りしながら、戦後の映画史をひも解く内容が「偽史小説」という趣きで、面白いです。鈴さんが大女優として歩んできた経歴は、ブルーカラーの登場人物を描くことの多い吉田修一らしく、京マチ子のような「肉体派」のものだと言えます。妖艶な演技で「雨月物語」や「羅生門」や「地獄門」などの名作に出演し、国際映画祭を席巻した京マチ子は、溝口健二、黒澤明、衣笠貞之助、小津安二郎など錚々たる映画監督に愛され、戦後日本を生きる女性たちの感情を大写しで代弁しました。吉田修一の『ミス・サンシャイン』は、被爆経験を持つ二人の女性が、戦後日本を代表する映画の表裏で「失われた青春」を懸命に取り戻そうと努力する姿を描いた「戦後文学」だと思います。
この原稿で無事、連載の最終回を迎えることができました。4年と少し、週1回のペースで常時2か月~3か月分のストックを持ち、無理なく連載を続けることができました。励ましの声を多く頂き、ご関心を頂いた皆さまに心より感謝申し上げます。担当デスクの週刊誌のような見出しの付け方も上手かったと思います(私が見出しを修正したのは、第1回のカズオ・イシグロ『遠い山並みの光』と第173回の吉田修一『続 横道世之介』のみ)。
次の長文原稿に向けた準備もはじめています。長めの批評文は、起稿するまでの準備期間が最も楽しい時間かも知れません。毎日、目標として定めた量の本を読み、ゆるゆるとドラフトを書いています。
単行本『現代文学風土記』では、帯文を載せて頂いた吉田修一さんの小説を最も多く取り上げています。大幅に加筆した単行本『現代文学風土記』はAmazonや楽天ブックスなどで予約販売がはじまっていますので、ぜひご一読頂ければ幸いです。
Amazon
https://www.amazon.co.jp/dp/4816710019?tag=hanmotocom-22&linkCode=ogi&th=1&psc=1&language=ja_JP
楽天ブックス
https://books.rakuten.co.jp/rb/17128410/?l-id=search-c-item-text-01