銀座の高級クラブ「ムアン」を主な舞台とした、『黒革の手帖』を彷彿とさせる復讐劇です。高級クラブに出入りする東洋商産や昭明相互銀行の幹部社員たちの謀略を描いた「社会派ミステリ」とも言えます。後半に、松本清張の父・峯太郎の出身地である、日南町の矢戸と風土の似た、島根県の頓原の描写があります。
映画版は、当初は野村芳太郎が監督する予定でしたが、前年に公開された「迷走地図」の出来栄えに、松本清張が不満を持ち、「天城越え」に続いて加藤泰の弟子の三村晴彦が監督を務めています。本作で「霧プロダクション」は解散となりますが、私はこの映画は様々な演出の挑戦があって良い作品だと思います。主演の真田広之は、アクションスターから俳優へ転身を果たし、2024年には「SHOGUN」でエミー賞を獲得しています。
真田広之の師匠の千葉真一は「カミカゼ野郎」や「海底大戦争」などで60年代から海外で評価され、「殺人拳」シリーズ、「武士道ブレード」、「キル・ビル」などでも人気を集めました。真田広之は師匠とは異なる力量で、時間をかけてエミー賞を獲得した点が素晴らしいと思います。