2025/04/27

「松本清張がゆく 西日本の旅路」第16回 「骨壺の風景」 大満寺(北九州市小倉北区)

 西日本新聞の連載「松本清張がゆく 西日本の旅路」第16回(2025年4月27日)は、ばばやんこと祖母・カネとの思い出を綴った、晩年の自伝的小説「骨壺の風景」を取り上げました。担当デスクが付けた表題は「掘り起こされた祖母の思い出」です。

 松本清張の一家は小倉の旦過市場の近くで飲食店を営んでいましたが、「貧窮」の中にありました。このため「ばばやん」の遺体は、父と叔父と清張が大八車で焼き場まで運び、骨壺は近所の寺に「一時預け」となり、長い年月が経ちました。

 清張は「死人の村」に祖父母が住んでいる夢を見て、「ばばやん」の骨壺を探すことを決意します。小倉の地図を見ながら、過去の記憶を手繰り寄せる文章から、ノンフィクションともミステリとも言える「スリル」が伝わってきます。

 清張にとって本作で描かれる「ばばやん」との時間は、人生で最も苦しい時期で、時を経て掘り起こされた記憶の断片は、文芸誌「新潮」の掲載作品らしく、文学的な魅力を放っています。

https://www.nishinippon.co.jp/item/1344613/

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 サブスクで音楽を聴いて久しいですが、たまに思春期に聴いていたアルバムがリマスターされ、未発表音源込みで再リリースされていることに気付き、感動します。最近の収穫はR.E.M.のAutomatic For the People(1992年)の25th edition(2017年)。Man on the Moonは、アンディ・カウフマンをジム・キャリーが演じて映画・ドラマにもなりました。終盤のNight Swimming, Find the Riverまで、ロードムービーのような良曲が続きます。シンプルな楽曲と歌詞が良く、カート・コバーンが亡くなる直前に聴いていたことでも知られますが、元レッド・ツェッペリンのジョンジーのアレンジも良いです。Everybody Hurtsのように、レイモンド・カーヴァ―の掌編のような曲は、今聴き返しても、懐かしさと新鮮さの双方が感じられます。カーヴァーだと「象」とか「レモネード」あたりの、日曜日の夕暮れのような雰囲気。

R.E.M. - Everybody Hurts

https://www.youtube.com/watch?v=5rOiW_xY-kc&list=RD5rOiW_xY-kc&start_radio=1

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 NFLドラフトはMiami大学のQB・Cam Wardが1巡1位指名でした。今年は1巡指名のQBがわずか2人、オフェンスラインが8人という珍しい年でした。USA Todayの記事だと、The top 12 choices will get contracts worth at least $20 million over four yearsなので、上位でドラフトされると、ルーキー契約でも4年で30億円ぐらいが保障されます。隣で一緒に観ていた息子に、今から食事を倍ぐらいとって、身長2m、体重150キロを目指し、左利きのラインマンになって家族の生活を楽にしてくれないか、と言ったら、照れてました。(QBは右利きが大半で、左側がブラインドサイドになるため、左利きのラインマンの希少価値が高く、平均年俸が高いのです)

Best Moments of the 2025 NFL Draft!

https://www.youtube.com/watch?v=D-CxIs7HCcg&t=503s

 Green Bayでの開催だったので、ライバルのChicago Bears関連のネタが豊富で面白かったです。トランプが(トランプタワーで有名な)シカゴをディスって「The Bears Still ○○」、と言ってたという、Clay Matthewsの際どいジョークで始まり、WWEでヒールのSeth Rollinsが、シカゴ出身でもないのに、謎のシカゴ・ベルトを掲げてBears推しでブーイングを浴び、ひと仕事。横田基地からの中継もありましたが、日本のメディアは無反応(アメリカの大衆文化のフォロー不足)。

 NFLのドラフトは指名された選手と家族や友人が一緒に映り、様々な文化的な背景や地域色が感じられるのが面白いです。Green Bay Packersは、地域に根差したスポーツ文化の担い手として模範とされるチームで(人口が10万人と少しでスタジアムが7万人規模)、Jリーグ発足の際に参考にされたことでも知られます。

Top NFL Draft Reactions | Emotional Moments From Future Stars 🥹

https://www.youtube.com/watch?v=XhO0OjDwo2E

2025/04/24

楽天大学ラボ 「戦後思想」再考―江藤・吉本・三島から読み解くこれからの生き方 先崎彰容×酒井信×宇野常寛

 宇野常寛さんと先崎彰容さんとの楽天大学ラボでお話しした動画「戦後思想」再考が公開されました。江藤淳の「成熟」、吉本隆明の「自立」、三島由紀夫の「明晰」をめぐる話です。短時間の打ち合わせで、濃厚なお話ができるお二人はさすが、と思いました。当初は憲法とか60年代の思想についてお話する予定でしたが、テロップに何となく書いたキーワードから話が広がって、1時間半という収録でした。宇野さんの司会と、先崎さんのまとめが素晴らしく、楽しい時間でした。

「戦後思想」再考―江藤・吉本・三島から読み解くこれからの生き方 

先崎彰容×酒井信×宇野常寛

https://www.youtube.com/watch?v=fIKlTogXi64

 上で話さなかったことは、おおよそ下のPLANETSでの宇野さんとの対談でお話ししています。

なぜ「アーキテクチャ」も「コモンズ(の共同体による自治)」も「解」にならないのか? 酒井信 × 宇野常寛(連続対談『庭の話の話)

https://www.youtube.com/watch?v=VNLtRqemUr0&t=2s

2025/04/18

毎日新聞の講演記事と『松本清張研究 第二十六号』と『庭の話』書評

 毎日新聞の西部版(2025年4月18日)に先月、小倉の丸善で行った講演の取材記事を掲載頂きました。表題は「小倉で育んだ素養 清張を語る」です。小倉城を借景にした講演では、小倉・九州を舞台にした清張作品の描写や、下関・小倉時代の祖母を通した父との関係などについてお話ししました。『点と線』の直筆原稿の新しい発見についても少しふれましたが、後日、西日本新聞の連載などで詳しく書きます。定員を超えるご応募を頂き、サイン会では20人ぐらいの方々に『松本清張はよみがえる』をご購入いただき、良い機会でした。

https://mainichi.jp/articles/20250418/ddl/k40/040/282000c

 あと『松本清張研究 第二十六号』に「松本清張と文藝春秋と週刊文春 ――『十万分の 一の偶然』と『彩り河』を中心として」という原稿を寄稿しました。『松本清張研究』は研究者、批評家、ジャーナリスト、編集者の原稿が目次を共にする研究誌で、過去の特集テーマも魅力的です。私は週刊誌連載の清張作品の中から、「週刊文春」掲載の晩年の2作(『十万分の 一の偶然』と『彩り河』)について、論じています。私の師匠・福田和也も過去に2度、コラムと対談で目次に登場しており、感慨深いです。表紙に名前を出して頂き、ありがとうございます。


 それと西日本新聞朝刊(2025年4月19日)に宇野常寛さんの『庭の話』の書評を寄稿しました。表題は「多様で開かれた場を築く」です。いい本で、3000円を超える批評書で1万部超えは、メディアを運営してきた経験が生かされた、立派なものだと思います。宇野さんとのPLANETSでの対談「なぜ「アーキテクチャ」も「コモンズ(の共同体による自治)」も「解」にならないのか? 酒井信 × 宇野常寛(連続対談『庭の話の話)」も良かったです。