2024/11/09

福田和也先生・追悼文

「文學界」(2024年11月号)に福田和也先生の追悼文を寄稿しました。表題は「福田和也という人 文化保守の情感」です。文学を愛した福田先生へのはなむけとして、「文芸葬」ができて良かったです。『江藤淳は甦える』の著者の平山周吉さんの追悼文と並んで掲載されています。江藤淳が亡くなった時、江藤と最後に会い、自裁の報を聞いて「文學界」で特集を組み、福田先生から「江藤淳の文学と自決」を受け取った編集者が、平山さんでした。

「新潮」(2024年12月号)の「追悼・福田和也」もお勧めです。島田雅彦さんと柳美里さんの心に沁みる追悼文が読めます。島田さんの追悼文は読売新聞も含めて迫力があり、熱い友情を感じました。『石に泳ぐ魚』をめぐる柳さんと福田先生のエピソードは初耳でした。初めて私が「週刊SPA!」に寄稿した書評が柳さんの『石に泳ぐ魚』(2002年)でしたが、掲載後に柳さんから編集部に丁寧なお礼を頂いた経緯が、よく分かりました。大澤信亮の文章も川端論を切り口に「空虚さ」と対峙していて面白かったです。福田先生と大澤と「たいめいけん」に行ったのは覚えていますが、あの時、先生が床に落とした箸を拾って食べていたとは(笑)

「週刊読書人」の新庄耕さん、風元正さん、明石健五さんの追悼文も、往時の面影が感じられて良かったです。誰かが書いた福田先生の追悼文をずっと読んでいたいです。「三田評論」と「ユリイカ」の追悼文(論考が30枚、解題が20枚、著作一覧)を書き終えましたが、告別式の後、骨を拾い続けている気持でいます。今は円城塔さんの新作『コード・ブッダ 機械仏教史縁起』の書評と、BBCのドキュメンタリーの監修×2に取り組んでいます。

https://books.bunshun.jp/ud/book/num/49100770711472024



 宇野常寛さんとの「僕たちは福田和也が遺したものから何を引き継ぐべきなのか?」という対談が、PLANETS YouTubeチャンネルで公開されました。

https://www.youtube.com/watch?v=AH90yh3KGJw

 収録したのが追悼文を続けて入稿した後で、通夜の前だったので、まだ原稿を書いた勢いで明るく話せましたが、通夜と告別式を終えた直後だと、メンタル面で、やや厳しかったかも知れません。

 精進落としの席でたまたま隣の席だった島田雅彦さんが、編集者からのビールの勧めに「痛風なので」とおっしゃって断られていたので(ご著書の『散歩哲学』でも痛風について触れられていました)、若々しく見える島田さんも色々あるのだなあ、と思った数秒後に、日本酒をぐびぐび飲まれていました。若さと健康の秘訣を伺ったところ、「懸垂をやるぐらいですかね」とのご回答だったので、私も「懸垂」をやろうと思います。福田先生は、音楽や落語、小説の朗読を聞きながら「散歩」をやっていましたが、「懸垂」はやっていませんでした。福田先生と島田さんの『世紀末新マンザイ パンク右翼vs.サヨク青二才』の裏話などが聞けて、有難い時間でした。

 西日本新聞(2024年9月26日)に福田和也先生の追悼文をカラーで掲載頂きました。福田先生のご両親のルーツが共に佐賀ということもあり、ブロック紙の文化欄のトップに寄稿できて良かったです。大きな写真が私が福田先生と最初にお会いした翌年の2000年のもので、私と一緒に映っている小さな写真が2019年の小林秀雄賞のときのものです(改めて写真を見ると、体調悪いのに、赤ワインを飲んでるじゃないですか、先生!)。


 福田和也先生とは、ホテルオークラでお話したのが最後になりましたが、お別れのご挨拶のようなものは、その時のやり取りや、産経新聞やYahoo!ニュース、KKベストセラーズやエキサイトニュースなどの、最後の3冊の書評などでできたかな、と思いつつも、思ったよりも早くその時が来て、心の整理が付いていない、というのが正直なところです。

 平成期の日本の文芸の発展に、大きな貢献をされた先生だったと思います。私が身近に接した往時の福田先生は、昼夜を問わず、猛烈な勢いで仕事をされ、文芸を中心とした価値判断にいつも真剣で、ピリピリとした緊張感のある、凄い人でした。慶應SFCの存在を広く伝えるのにも大きな貢献をされました。

 2024年9月29日に行われたお別れの会・通夜では角川春樹さんや重松清さん、告別式では文藝春秋の飯窪社長が、心のこもった弔辞を読まれ、往時の福田先生を偲ぶことができました。通夜や葬儀では、島田雅彦さん、原武史先生、『地面師たち』で注目を集めるゼミOBの作家・新庄耕さん、文芸ジャーナリズムに関わる出版各社の編集者の方々、ゼミの卒業生など、福田先生と親交のあった皆さまが、お別れをされていました。久しぶりにお会いした方々ともお話ができ、嬉しかったです。

 矢作俊彦さん、柳美里さん、リリーフランキーさん、古市憲寿さん、出産を控えていたゼミOGの作家・鈴木涼美さんなど、一線で活躍されている書き手の皆さまの献花も、祭壇を彩っていました。

 物書きの友人や編集者の方々からも多くの励ましを頂き、心の支えになりました。下の最後の3冊の書評はよく知己の編集者に「追悼文っぽい」「生前葬だね」と(冗談半分で)言われていましたが、そうなるかも知れない、という予期の中で書いていました。福田先生を介してご厚誼を頂いた皆さまに、心より感謝申し上げます。

『福田和也コレクション1:本を読む、乱世を生きる』書評/「奇妙な廃墟に聳える邪宗門」

https://www.kk-bestsellers.com/articles/-/945463/

https://www.excite.co.jp/news/article/BestTimes_00945463/

福田和也著『放蕩の果て 自叙伝的批評集』書評/産経新聞

https://www.sankei.com/article/20231029-GVOYPZDBAVK3XBTHLU63ICG56M/

福田和也著『保守とは横丁の蕎麦屋を守ることである』書評/「日常を文化とする心」

https://www.sankei.com/article/20230604-UB3SVSVSOFPZXM6ERJOD36HZUU/


産経新聞 この本と出会った 『風土 人間学的考察』和辻哲郎著 思い出す恩師の福々しい笑顔

https://www.sankei.com/article/20170402-DHL4URE7EFPHXMYXCMSCX6WYIY/

三田評論 【執筆ノート】『松本清張はよみがえる──国民作家の名作への旅』

https://www.mita-hyoron.keio.ac.jp/literary-review/202406-2.html

中央公論と西日本新聞の書評

「中央公論」(2024年12月号)の「書苑周遊 新刊この一冊」に、先崎彰容さんの新刊『批評回帰宣言——安吾と漱石、そして江藤淳』の書評を寄稿しました。先崎さんの論壇と分断を架橋する批評への思いが、びしびしと伝わってくる良書でした。以前にこの本に収録されている文芸誌掲載の批評文について、先崎さんに感想を求められたことがあり、書評で応えることができて良かったです。

https://chuokoron.jp/chuokoron/latestissue/

「西日本新聞」(2024年11月9日)の書評欄に、吉田修一さんの新刊『罪名、一万年愛す』の書評を寄稿しました。表題は「松本清張『砂の器』への挑戦状」です。『松本清張はよみがえる』で『砂の器』について、吉田修一さんの『怒り』と比較しながら論じていました。

「駅の子」の描写など、ヒューマニズムに根差した普遍的な問題意識があり、神話的な響きが感じられた点が、とても良かったです。吉田さんの作品の書評は、2018年の『ウォーターゲーム』『国宝』から7作について書けているので、長崎南高校の後輩として嬉しい限りです。この小説は『砂の器』を下地とした作品で、吉田修一さんご本人と、その「後輩」の探偵も登場します。

KADOKAWA文芸「カドブン」note出張所

https://note.com/kadobun_note/n/n4e12922172eb

2024/10/27

「松本清張がゆく 西日本の旅路」第9回 彩り河 頓原(島根県)

 西日本新聞の連載「松本清張がゆく 西日本の旅路」第9回(2024年10月27日)は、週刊文春に1981年から2年ほど連載された、晩年の長編『彩り河』を取り上げました。担当デスクが付けた表題は「地方出身者の成長物語の起点」です。

 銀座の高級クラブ「ムアン」を主な舞台とした、『黒革の手帖』を彷彿とさせる復讐劇です。高級クラブに出入りする東洋商産や昭明相互銀行の幹部社員たちの謀略を描いた「社会派ミステリ」とも言えます。後半に、松本清張の父・峯太郎の出身地である、日南町の矢戸と風土の似た、島根県の頓原の描写があります。

 映画版は、当初は野村芳太郎が監督する予定でしたが、前年に公開された「迷走地図」の出来栄えに、松本清張が不満を持ち、「天城越え」に続いて加藤泰の弟子の三村晴彦が監督を務めています。本作で「霧プロダクション」は解散となりますが、私はこの映画は様々な演出の挑戦があって良い作品だと思います。主演の真田広之は、アクションスターから俳優へ転身を果たし、2024年には「SHOGUN」でエミー賞を獲得しています。

 真田広之の師匠の千葉真一は「カミカゼ野郎」や「海底大戦争」などで60年代から海外で評価され、「殺人拳」シリーズ、「武士道ブレード」、「キル・ビル」などでも人気を集めました。真田広之は師匠とは異なる力量で、時間をかけてエミー賞を獲得した点が素晴らしいと思います。


2024/10/06

PLANETS「僕たちは福田和也が遺したものから何を引き継ぐべきなのか?」 (宇野常寛さんとの対談)

 宇野常寛さんとの対談「僕たちは福田和也が遺したものから何を引き継ぐべきなのか?」が、PLANETS YouTubeチャンネルで公開されました。

https://www.youtube.com/watch?v=AH90yh3KGJw

 福田和也先生の「文化保守」の考え方や、初期の文芸批評の方法論について説明しています。あまり編集など裏方の仕事については話をしないのですが、対談の相手が編集の世界に通暁している宇野さんだったこともあり、福田・坪内対談の舞台裏や、西部邁さんや大塚英志さんとの決別の時のことなど、珍しくその方面の話も少し触れました。平成の文芸メディア史の中での位置付けや、「文化プロデューサー」としての功績にも触れています。

 堀潤さんをはじめ、撮影ではスタッフのみなさまにお世話になりました。3時間ほど話したので、有料部分の方がだいぶ長いです。ご関心が向くようでしたら、ぜひご視聴ください。

「文學界」(2024年11月号)の追悼文以外では、福田和也先生については慶應義塾の刊行物と「ユリイカ」の福田和也特集号に、批評文と解題を寄稿する予定です。年内に発売予定の『福田和也コレクション2』についても批評文を書く予定です。次月は「中央公論」に寄稿しています。あとは西日本新聞に「松本清張がゆく」の連載と、松本清張の『砂の器』を題材とした吉田修一さんの新作の書評が載ります。BBCのドキュメンタリーの監訳×2も進行中です。

2024/10/05

松本清張記念館・館報と週刊読書人への寄稿

 松本清張記念館・館報(2024.8 第74号)に松本清張研究会の講演録(@東京学芸大学)が掲載されました。演題は「清張作品の「謎」と「秘密」に迫る ―『松本清張はよみがえる』を手引きに」です。4ページにわたり掲載されており、ゲラの手直しが大変でしたが、読みやすい内容になっています。次の「松本清張研究 第25号」(2025年3月)にも寄稿しています。



「週刊読書人」(2024年10月4日)に七尾和晃著『語られざる昭和史 無名の人々の声を紡ぐ』(平凡社)の書評を寄稿しました。表題は「昭和100年の年を前に 「集合的記憶」を「現実感」と共に継承する」です。隣が山本貴光さんの『スクウェア・エニックスのAI』の書評で、あまりのジャンルの違いに、笑ってしまいました。下に書評の書き出しのみ記載します。

 来月は久しぶりに論壇誌へ寄稿しています。他の原稿にも取り組んでいます。

昭和100年の年を前に 「集合的記憶」を「現実感」と共に継承する

『語られざる昭和史 無名の人々の声を紡ぐ』は市井の人々の戦前・戦後の体験を記録したノンフィクションである。学術的な区分では、歴史学的なオーラル・ヒストリー(口述歴史)と言うよりも、都市社会学的なライフ・ヒストリー(生活史)に近い著作である。語り手の人生を伝える簡潔な筆致に、著者のルポルタージュの執筆経験の豊かさが感じられる。

 マイケル・サンデルに代表される現代的なコミュニタリアニズム(共同体主義)は、同じコミュニティのメンバーと協業し、熟議を重ね、先入観に基づく判断を修正しながら、「共通善(アリストテレス)」を模索する点に特徴がある。社会秩序のあり方や人間の能力は、「偶然」に左右される度合いが高く、社会や人間の多様性と可変性を、新しい事例に即し、地に足の付いたコミュニケーションを通して学ぶ必要があるのだ、と。このようなコミュニタリアニズムの考え方を踏まえれば、コミュニティの成員が「偶然」と折り合いをつけながら生存してきた履歴と言える「ライフ・ヒストリー」を「集合的記憶」として次世代に継承することは、重要な意味を持つ。

<以下、つづく>

2024/09/29

「松本清張がゆく 西日本の旅路」第8回 泥炭地 小倉・旧旭町遊郭

 西日本新聞の連載「松本清張がゆく 西日本の旅路」第8回(2024年9月29日)は、松本清張が肝臓がんで亡くなる3年前の1989年に「文學界」に掲載され、文芸誌に掲載された最後の小説となった「泥炭地」を取り上げました。担当デスクが付けた表題は「最後の「私小説」の原風景」です。

 本作は1974年に「文藝春秋」に掲載された「河西電気出張所」や1980年に「新潮」に掲載された「骨壺の風景」の系譜に連なる「私小説」です。文学史に残る私小説の多くに事実の脚色があるように、本作にも同様の脚色が見られます。

 本作「泥炭地」の福田平吉の姿には、親の飲食業が上手くいかず、家庭が貧しかった頃に抱いた「劣等感」が投影されています。「両親が老いたら、その面倒は平吉ひとりがみなければならぬ。月給十一円でどうして食わせられるか」という問いは、切実なものです。

「泥炭地」は、知名度の高い作品ではありませんが、数多くの名作を世に送り出してきた松本清張の「原動力」を、戦前の小倉の「原風景」と共に感じさせる「清張純文学」の遺作だと思います。

https://www.nishinippon.co.jp/item/n/1263906/

2024/09/22

「松本清張がゆく 西日本の旅路」第7回 十万分の一の偶然 紫雲丸事故現場(香川県)

 西日本新聞の連載「松本清張がゆく 西日本の旅路」第7回(2024年9月22日)は、1955年に香川県高松沖で発生した「紫雲丸事故」を題材とした『十万分の一の偶然』を取り上げました。担当デスクが付けた表題は「報道問う社会派ミステリの現場」です。今回の連載では、『松本清張はよみがえる』で取り上げなかった晩年の「社会派ミステリ」と、戦後の大衆文化史についても、重点を置いて論じていきます。

 紫雲丸事故は、広島から修学旅行で乗船していた小学生を含む168名が亡くなった被害の大きさから「国鉄戦後五大事故」の一つに挙げられています。またこの事故では、第三宇高丸に乗船していたカメラマンが、救助船から甲板上で混乱する児童ら乗客の姿を撮影したことが、問題となりました。

 ただ作中で清張はジャーナリストを擁護して、次のように記しています。「写真では、いかにもカメラマンがすぐに救助できそうに見えるが、じっさいは困難または不可能なのである」と。もちろん本作で描かれるように、事故がカメラマンによって意図的に引き起こされたものだとすれば、重大な問題です。

 1960年に刊行された『日本の黒い霧』で下山事件や松川事件を含む「国鉄三大ミステリ事件」と向き合った、松本清張らしい「社会派の題材」と言えます。本作は70歳を超えた松本清張が、経済的な発展を遂げた日本社会に残存する闇に目を向けながら展開した、ノンフィクション風のミステリ小説です。*次回は次週日曜掲載

https://www.nishinippon.co.jp/item/n/1261302/

2024/08/25

「松本清張がゆく 西日本の旅路」第6回 絢爛たる流離 耶馬渓

 西日本新聞の連載「松本清張がゆく 西日本の旅路」第6回(2024年8月26日)は、大分県中津市の耶馬渓や山口県宇部市、朝鮮半島の井邑などを舞台にした『絢爛たる流離』を取り上げました。この作品は、1963年に「婦人公論」に連載された連作で、「三カラット純白無疵」の「不幸のダイヤモンド」が引き起こす事件の数々を描いた「犯罪小説」です。松本清張が朝鮮半島で従軍した経験を投影した数少ない「戦争小説」の一つとも言えます。担当デスクが付けた表題は「欲望に根差した「悲劇の舞台」」です。

 1955年に「オール讀物」に掲載された短編「赤いくじ」を発展させた内容で、50年代の短編の良さと60年代の長編の良さの双方が感じられます。ゲンロンのイベントの質疑で、私が松本清張の入門書として挙げた作品で、従来、評価が低かった作品の一つです。

 夏休みは、この連載のストック分の原稿(9月は2本掲載)と、書評が一本、少し長めの論考に、ゆるゆると取り組んでいました(夏バテでほどほどの進行)。

https://www.nishinippon.co.jp/item/n/1250594/

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 帰省のついでに家族でジブリパークに行きました。「食べるを描く」や「名場面」の展示が、子供たちにも好評でした。欲を言えば、ジブリらしく人にお金をかけた、親子で楽しめるショーがあると嬉しく、「千と千尋の神隠し」の舞台版や「風の谷のナウシカ」の歌舞伎版の短縮上演があると良かったです。またジブリ的というか、転向左翼的なコミュニタリアニズムに根差した農業体験もあると、子供の教育に良いと思いました。たたら場で五平餅を焼きましたが、ズイヨー映像時代の「アルプスの少女ハイジ」の著作権をとって、ハイジのチーズや白・黒パンの食べ比べができるといいなと思いました。小田部洋一の展示も常設で見たい。

 個人的には、ご当地プロレスみたいな「箸休め」のようなイベントがあると面白く、たとえば、カオナシとトトロが「どんどこ森」で、超獣ブルーザー・ブロディのようなムーブで闘うと、名物「魔女の谷のビール」もすすむと思いました。プロレス好きだった野坂昭如の「火垂るの墓」のバックストーリーの展示も見たい。

 ジブリについては、前に資料を読み込んだ時の記憶がそこそこ残っていたので、また本を書きたいと考えています。

2024/07/31

増刷『松本清張はよみがえる 国民作家の名作への旅』

 『松本清張はよみがえる 国民作家の名作への旅』(西日本新聞社)の2刷が発行されました。松本清張の代表作と共に、その人柄や生き様を紹介しつつ、ガイドブックとしての網羅性と、年代記としての歴史性の双方を意識した内容です。初版から50か所ほど修正を入れています。

 読売新聞朝刊(2024年5月20日)で保坂正康氏の『松本清張の昭和史』と並べてご紹介頂きました。西日本新聞朝刊(2024年3月9日)、早川書房の「ミステリマガジン」(2024年5月号)、Real Sound(2024年6月3日)、Newsweek日本版(2024年4月5日)の「シリーズ日本発見」とYahoo!ニュース、東横INNの客室専用誌「たのやく」の2024年8月号でご紹介いただきました。新潮社の「考える人」の連載「たいせつな本 ―とっておきの10冊―」、週刊読書人の2024年5月3日号(4月26日合併)の「著者から読者へ」、三田評論の2024年6月号の「執筆ノート」にも寄稿しています。

 Amazonや楽天ブックスで度々完売するなど、売れ行き好調で、発売から5カ月で1000部の増刷ですので、出版不況の中で上々の成果だと言えます。都内の大型書店では、注目書やミステリの棚にも置いて頂き、面陳列や平積みの書店も多くありました。『現代文学風土記』の2刷から電子版の契約も交わしており、図書館での配架も増えています。取材や書籍の紹介なども随時、お引き受けしております。

読売新聞朝刊(2024年5月20日)

https://www.yomiuri.co.jp/culture/book/articles/20240519-OYT8T50062/

Newsweek日本版(2024年4月5日)

https://www.newsweekjapan.jp/nippon/season2/2024/04/492577.php

Yahoo!ニュース(2024年4月5日)

https://news.yahoo.co.jp/articles/285d18ba948663f1515b6f5aacd3d5d2e421c815

新潮社「考える人」(2024年4月26日)

https://kangaeruhito.jp/article/758925

Real Sound(2024年6月3日)

https://realsound.jp/book/2024/06/post-1677543.html

三田評論(2024年6月号)

https://www.mita-hyoron.keio.ac.jp/literary-review/202406-2.html

たのやく 8月号(vol.243)

https://www.tano-yaku.com/tanoyakuNew/index.html


 2024年6月9日より西日本新聞で、新連載「松本清張がゆく 西日本の旅路」を担当します。ゲンロンカフェで開催した原武史先生と與那覇潤さんとの「松本清張を発掘せよ」の動画は下のリンクで観ることができます。

原武史×酒井信×與那覇潤 松本清張を発掘せよ #ゲンロン240602


 吉田ヂロウさんの楽しいイラストや地図も入り、過去の松本清張関連の本と異なる視点から、文芸批評とメディア史研究の間で、企図したテーマや方法を展開できた感じがしています。昨年の講演でも紹介した、P11やP183、P205の写真など、西日本新聞社蔵の松本清張の貴重な写真も使用しています。連載時から本文以外は西日本新聞の担当デスク・記者にお任せしていましたが、連載に加筆して1.8倍ほどの分量になりました。




 高度経済成長期に発表された作品を主として取り上げていますが、ジャーナリズムや古代史への関心が垣間見える作品や、映像作品と共にメディア史に大きな足跡を残した作品も取り上げています。能登半島を舞台にした『ゼロの焦点』や、鉄道旅行ブームを先どった『点と線』、戦前戦後の小倉を舞台にした自伝的な作品などを通して、旅情や土地の記憶が伝われば、嬉しいです。

 この本をもとに、講演を行っています。西日本新聞社の主催で、2024年3月25日に、天神の久留米大学福岡サテライト(博多大丸6F、西日本新聞社隣)で清張記念館の学芸担当主任の中川さんと「松本清張の九州北部を中心とした作品の魅力」に迫る講演を行いました。小雨の中、多くの方々にご来場を頂き、非常に楽しい時間を過ごすことができました。この講演については、4月10日に西日本新聞に記事が出ました。

本紙連載「松本清張はよみがえる」書籍化 格差、嫉妬、生きづらさ…現代に通じる

https://www.nishinippon.co.jp/item/n/1199085/

 6月1日(土)には、松本清張研究会(@東京学芸大学)で清張作品の系譜と、現代の文脈で再評価する上での要点について、講演を行いました。


 前作の『現代文学風土記』は多くの図書館に配架を頂き、ビブリオバトルなど図書館のイベントでご使用を頂きました。本作も書籍メディアとして教育的な利用を意図して製作していますので、教育の場でもご活用頂けるかと思います。フリガナも多く、中高生や留学生向けの読書入門書としてもお勧めです。執筆の意図や清張作品の現代的な解釈、メディア史的な価値についても、講演などの機会にお話をしていきたいと思います。








2024/07/28

「松本清張がゆく 西日本の旅路」第5回 神々の乱心 吉野川

 西日本新聞の連載「松本清張がゆく 西日本の旅路」第5回(2024年7月28日)は、奈良県の吉野川や宮滝遺跡を舞台にした『神々の乱心』を取り上げました。担当デスクが付けた表題は「南北朝背景に「昭和維新」描く」です。ゲンロンでも少しお話しましたが、未完の『神々の乱心』について、作中で言及される「神霊矢口渡」に着目して、結末を論じた批評は、新しいものだと言えます。

 昭和から平成に時代が変わり、80歳になった松本清張が「週刊文春」に連載した未完の遺作です。昭和維新の時代を背景に、かつて『昭和史発掘』で取り上げた天理研究会事件や島津ハル事件などの不敬事件を下地とした「昭和維新の裾野の広さ」を物語る事件の数々を描いています。1968年に刊行された『Dの複合』のように、古代史や昭和史への関心と、推理小説が融合した作品だとも言えます。

 清張研究会でも述べましたが、結末の予想はさておき、南北朝時代を背景とした「神霊矢口渡」に着目した『神々の乱心』の解釈が重要なのは、確かだと思います。清張は「神霊矢口渡」を作中の一箇所で引いているわけですが、満州生れの新興宗教と、皇国史観のルーツとなった北畠親房の『神皇正統記』を融合させ、シャーマニズム的な昭和維新を描きたかったのだと思います。

 連載5回を終えました。旦過市場、呼子、能登金剛、門司、吉野川と、清張作品の舞台を歩みながら、良い手応えで、新連載を軌道に乗せられたと感じています。地方色の豊かさは清張作品の重要な特徴で、今日の「文化観光」のあり方を考える上でも、(映像作品を含め)面白い描写が多いです。読者の反響も良く、『松本清張はよみがえる』も1000部の増刷となりました(7月31日の発行)。8月は1回、9月は2回の掲載予定です。

https://www.nishinippon.co.jp/item/n/1240060/

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 7月21日は江藤淳の没後25年ということで、平山周吉さん、会田弘嗣先生、新潮社の風元正さん、先崎彰容先生、中央公論の磨井慎吾さん、與那覇潤さんと青山霊園の江藤淳の墓参り&飲み会を行ないました。恒例の会合ですが、世相を斬る雑談が飛び交う刺激的な会で、多方面で活躍されている皆さまのお仕事にいつも励まされています。執筆暦も20年を過ぎて、同業の方々から新しい刺激を頂けるのは有難く、来年は常勤の教員になって20年の節目ということもあり、連載以外にも一冊、本を出したいと考えています。

 夏休みは帰省しながらの家族旅行で、娘が鉄道好きなので、長崎行きは往路・復路それぞれプラス一泊の日本列島横断の旅となります。今年はジブリパークに行く予定です。宮崎駿とメディア史について再度、本を書きたいとは思うのですが、なかなか手が回らず、まだまだ先になりそうです。