2021/04/05

西日本新聞「現代ブンガク風土記」第152回 高橋源一郎『ジョン・レノン対火星人』

 明治大学国際日本学部で2年目を迎えました。知り合いの教員がいない中、一般公募で専任教員として採用を頂いたことへの感謝の気持ちを、学部に対して持ち続けています。新型コロナへの対応は大変でしたが、快活に教育・研究・校務に勤しんできたつもりでいます。昨年の7月から対面授業を実施してきましたが、今学期は4月からすべての授業を対面でスタートし、すでに多くの学生たちと対面でやり取りできていることを、嬉しく感じています。

 ここ最近は学術論文を続けて書いています。先月末発行の「国際日本学研究」に「現代日本の新聞産業の現状と収益構造の変化に関する研究」という論文を15ページほど寄稿しました。科研費の分担分の成果の一部です。今は英字ニュースの解析と分析に関する依頼論文を書き終えたところで、7月下旬に学会誌に掲載予定です。文科省の共同利用・共同研究の昨年度分の報告書も作成中です。

 あと大学の広報誌『明治』の次の号に、以前にMeiji.netに寄稿した「メディア・リテラシーの有無が生死を分けることもある」が6ページで転載される予定です。内容を微調整しました。

https://makotsky.blogspot.com/2020/10/meijinet.html

 その他、西日本新聞の連載と分厚い評論本への批評、英字論文など、色々と仕事に追われている内に新年度という感じですが、この調子で、残り27年の教員生活を全うしたいものです。

 新年度最初の「現代ブンガク風土記」(第152回 2021年4月4日)は、昨年度のはじめの村上春樹『羊をめぐる冒険』と同様に、現代小説への関心の原点となった作品(高橋源一郎『ジョン・レノン対火星人』)を選びました。表題は「正気と狂気 理不尽な人間」です。

 高橋源一郎の「過激派」としてのルーツが感じられる作品で、好きな現代小説の一つです。ポスト・モダン小説と言える虚実が入り混じった実験的な作風で、当時の日本の戦争史観への皮肉がたっぷりと塗り込められています。唐突に「プロレスとは愛(アムール)なのだ」というアブドーラ・ブッチャーのセリフが挟まれたり、「突発性小林秀雄地獄」に見舞われた人物が「おれはきつと近代の野蛮人なのだ。近代絵画が好きだ、おれは。本居宣長は桜なのだ。利口なやつはたんと反省するがよい、おれは馬鹿だから」など小林風の言葉を口にして反省するなど、不条理な内容がめくるめく展開されます。

 写真は作品の舞台となった東京拘置所で、高橋源一郎は、横浜国立大学時代に学生運動に関わり、凶器準備集合罪で逮捕され、半年ほど収監された経験を持ちます。高橋はこの時のトラウマで失語症となり、長期間、読み書きが上手くできなくなったらしいですが、本作は初期の作品らしく収監中の辛い経験が、幻想的な描写に強く反映されていて味わい深いです。正気と狂気が襞のように折り重なった現実世界を、私たちは常にすでに理不尽な人間存在として生きて続けながら、シミュラークル(模造品)とシュミレーション(想定演算)の外側に抜け出せないでいる、という現実を高橋は言葉を起爆させることで、挑発的に風刺しています。

西日本新聞 me

https://www.nishinippon.co.jp/item/n/718161/


高橋源一郎『ジョン・レノン対火星人』あらすじ

「マザー・グース大戦争」の被告として収監された「わたし」や「花キャベツカントリー殺人事件」を起こした「すばらしい日本の戦争」などが、東京拘置所を舞台として奇妙な物語をひもとく。後に「すばらしい日本の戦争」が狂ったふりをしていたことが判明し、小説は急展開していく。第24回群像新人文学賞の最終候補作「すばらしい日本の戦争」を改題した高橋源一郎の初期の代表作。