2019/11/09

集英社「すばる」12月号に吉田修一『アンジュと頭獅王』の書評を寄稿しました

集英社の月刊文芸誌「すばる」の2019年12月号に、吉田修一の新作『アンジュと頭獅王』の書評を寄稿しました。タイトルは「古典を大胆に甦らせる」です。
http://subaru.shueisha.co.jp/

森鴎外は代表作「山椒太夫」、地蔵菩薩が金色の光を放つ仏教色の強いシーンや鋸を使った拷問のシーンなど前近代的な描写をカットして、作品の端々に近代的な価値観を織り交ぜることで、「山椒太夫」をドイツの教養小説風の物語として創作しました。

吉田修一の『アンジュと頭獅王』は、森鴎外版の「山椒大夫」ではなく、仏教の説話を伝える説経節の代表作「さんせう太夫」をもとにして、新宿を舞台にした物語を書き足したオリジナリティの高い「古典文学のリバイバル作品」です。

森鴎外版の「山椒大夫」や東映動画の「安寿と厨子王丸」や絵本の「安寿とずし王丸」に触れたことがある人が読むと、アンジュが新宿の遊郭に売られ、頭獅王がサーカス団に奉公し、ICタグを付けられた移民や難民たちを解放する展開に驚かされると思います。

現代小説で人気を博した作家が、日本の古典作品を創作的に甦らせる試みそのものも面白いので、ぜひご一読を!