2021/10/25

西日本新聞「現代ブンガク風土記」第181回 綿矢りさ『生のみ生のままで』

 「現代ブンガク風土記」(第181回 2021年10月24日)では、秋田県湯沢市のリゾート・ホテルなどを舞台にした綿矢りさ『生のみ生のままで』を取り上げました。担当デスクが付した表題は「同性との「距離」を愛して」です。京都府出身の綿矢りさの作品も、連載初期から取り上げる予定でしたが、第181回での登場となりました。

 互いの彼氏を通して知り合った女性二人の恋愛を描いた作品です。視覚の情報に依存しない文学作品の特徴が生かされ、同性カップルに対する外見上のバイアスを取り払い、「生のみ生のまま」の心情表現を伝える工夫が施されています。逢衣と彩夏の互いを気遣い、すれ違う恋愛劇を通して、異性間の恋愛を前提とした婚姻制度などの社会秩序のあり方が問われ、対人関係や社会的な関係が見直されていきます。

「私は一緒に暮らしてもどうしても姉妹のようにならない自分と彩夏との、性別は同じであっても性質の違いから生まれる距離を愛した」と表現される「距離」を愛する表現が魅力的な現代小説です。

西日本新聞me

https://www.nishinippon.co.jp/item/n/820894/

綿矢りさ『生のみ生のままで』あらすじ

 秋田の温泉ホテルで彼氏の紹介で出会った女性二人が、様々な障害を乗り越え、相互の欲求に「生のみ生のまま」率直に生きる姿を描く。互いに愛情を深めながら、彩夏は芸能人として成功することを目指し、逢衣は編集者として周囲に必要とされる人間になることを目指す。表現豊かに女性同士の恋愛を描いた綿矢りさの新しい代表作。