2023/03/01

「没後30年 松本清張はよみがえる」第37回『けものみち』

 西日本新聞の連載「松本清張はよみがえる」第37回(2023年3月1日)は、高度経済成長期に東京に建てられた大型の高級ホテルを舞台に「経済格差」を体感させるミステリ小説『けものみち』について論じています。担当デスクが付けた表題は「高級ホテルを舞台に 照らす政財界の裏側」です。毎回、9×9文字で担当デスクに上手いタイトルを付けて頂いています。戸籍の売買が重要なトリックとなっていることもあり、同じく戸籍の売買を題材とした平野啓一郎の『ある男』とのmatch-upです。

 この作品の連載がはじまった1962年に、赤坂の南東にある虎ノ門でホテルオークラ東京が開業し、この作品が刊行され、東京オリンピックが開催された1964年に、赤坂の北にある紀尾井町でホテルニューオータニが開業しています。何れも帝国ホテルと共に「御三家」と称された高級ホテルで、国内外の要人が宿泊してきたことで知られます。流行に敏感な松本清張は、本作で庶民の憧れの的である新興の大型ホテルを作品の中心に据え、「時代の欲望」を浮き彫りにしました。

 冒頭に「けものみち」という言葉の説明が付されています。「カモシカやイノシシなどの通行で山中につけられた小径(こみち)のことをいう。山を歩く者が道と錯覚することがある」と。本作は政財界や警察の不正を芋づる式に暴いていく内容で、悪漢の鬼頭が満州に渡り、軍部と結託して資金を蓄え、戦後日本の中枢に自らの縄張り=「けものみち」を張り巡らせてきた経緯がミステリの核となります。彼らは、日本道路公団を想起させる「総合高速路面公団」を支配し、有料道路の建設事業に関わる「利権」を収入源にしていて、現実に日本道路公団は、かつては政財界の利権の温床となり、「第二の国鉄」と言われるほど多額の負債を抱えていました。

「週刊新潮」に掲載された作品らしく、情死や汚職などの「スキャンダル」が目くるめく展開される「悪漢小説」です。

https://www.nishinippon.co.jp/item/n/1060288/

*******

 先日、初めて提出した分野で研究費をご採択頂き、地道に取り組んで来た研究テーマだったこともあり、着手するのを楽しみにしています。成果については、計画通り、3年かけて海外の学会を中心に行う予定ですが、関心の近い先生方と国内の研究ネットワークも築いていきたいと考えています。現代社会は、評価やリスクの尺度が多様なので(様々なアカデミアや学会、学問領域が「政治的」に競合しているので)、ジョン・アーリのいう意味での「移動(的な展開)」が大事だと改めて思いました。学際系ということもあり、フットワーク軽く分野を渡り歩く探求心を持ち続けたいものです。