2023/03/10

「没後30年 松本清張はよみがえる」第38回「共犯者」

 西日本新聞の連載「松本清張はよみがえる」第38回(2023年3月10日)は、清張自身のわらぼうきの行商の苦労を下地にした「共犯者」について論じています。担当デスクが付けた表題は「自己破滅に至る不安 非合理描いた心理劇」です。毎回、9×9文字で担当デスクに上手いタイトルを付けて頂いています。かつて政治運動に関わっていた男の「新しい人生」を描いた絲山秋子の『エスケイプ/アブセント』とのmatch-upです。

 敗戦直後、松本清張が所属する朝日新聞西部本社広告部は仕事が少なく、1946年から48年まで清張は「買い出し休暇」を利用してわらぼうきの仲買の仕事をしていました。食糧難とインフレで新聞社の給料だけでは両親と妻子を養うことが難しく、副業をはじめたのです。わらぼうきは妻の実家があった佐賀で仕入れ、清張は小倉や門司を手始めに、防府・広島・大阪・京都・大津と販路を広げ、この経験は清張に旅をする喜びを与えました。

 全集の「あとがき」によると、本作は「鼠小僧」など庶民的な盗賊を主人公にした歌舞伎の「白波物」を参考にした作品です。特に河竹黙阿弥の「鋳掛松(船打込橋間白浪)」で主人公が、屋形船で宴会をする人々を見て、破損した鍋釜の修理(鋳掛)をやめる決意をし、商売道具を隅田川に投げ捨てる場面を参考にしたのだとか。松本清張もほうきの仲買をしていた時に、闇屋上がりの「成金」が芸者を上げて遊んでいるのを見て、「虱のいそうな汚い部屋」で「行商の真似」をしている自分自身が嫌になったらしいです。

 本作は「行商」や「営業」の仕事の苦労が伝わってくる内容で、清張作品の中でも繰り返し映像化されてきた短編の一つです。毎回一作品を論じるこの連載も開始から半年が経過し、清張山脈も八合目、40回に近付いてきました。

 膝蓋骨の骨折で、まだスムーズに歩くことはできませんが(階段はゆっくり昇り降り)、無理なく日常生活を送っています。近所の図書館に行った折に、娘が横断歩道を先に渡って車を停車させ、はとバスのガイドさんのように私を誘導する姿に、成長を感じました。「(存在論的な)気遣い」(ハイデガー)を大切にする大人になってほしいものです。古の時代も、子供が負傷した防人の父を気遣って、先回りして牛車を停車させ、大通りを渡らせるようなことがあったのかも知れません。

https://www.nishinippon.co.jp/item/n/1064835/

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 今週末はアカデミー賞の授賞式ですが、昨年は約40%のセリフが手話で表現されたCODAが作品賞・脚色賞などを獲り、注目を集めました。特に助演男優賞を獲ったTroy Kotsurの「手話ジョーク」に味わいがあり、プレゼンターのユン・ヨジョンが感極まって、怪しい手話をはじめるほどでした。Kotsurはゴールデングローブ賞も獲っていた余裕もあり、ブラック・ジョークを交えながら家族への感謝を示しつつ、disabled communityを称え、貫禄のある手話を披露していました。deaf actorとして史上二人目の受賞。Arizona出身ということもあり、今年のスーパーボウルでは、national anthem で手話を担当しています。

Troy Kotsur Wins Best Supporting Actor for 'CODA' | 94th Oscars

https://www.youtube.com/watch?v=TtE9WNw-L0E

Troy Kotsur performs the national anthem in ASL at Super Bowl LVII Feb. 12 2023 

https://www.youtube.com/watch?v=mKk7bNkNraw

 CODAは聴覚障がいを持つ家族が、コミュニティに包摂されながら、自由を謳歌する物語です。作中で歌われたJoni Mitchellの「Both Sides Now」の新しい解釈に、「社会的な分断」が煽られる時代に相応しい「深み」がありました(Joniも大絶賛)。Bostonで塩辛いシーフードを食べる時に、思い出すような味わいのある映画で、Gloucester, Massachusettsの海の風景が大きな魅力になっています。新鮮な映像表現でアメリカのマイノリティが直面する政治・経済の問題や、日常生活(性愛の描写を含む)を、快活に表現した秀作だったと思います。

 今年のアカデミー賞のホストはJimmy Kimmelで、無難な感じですが(Seth MacFarlaneやChris Rockのホストをまた見たいのですが)、Kotsurや彼の妻役のMarlee Matlinような埋もれていた役者の再評価に期待しています。

Troy Kotsur discusses hit movie ‘Coda’

https://www.youtube.com/watch?v=z28wZ8mGv6Q

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 東日本大震災から12年が経ちました。震災時に陸前高田の小学生で、大船渡高校からプロ入りした佐々木朗希がマウンドに立つ姿に、多くの人が心を動かされたと思います。前任先で学生たちと陸前高田・大船渡・大槌にボランティアで行きましたが、全国各地から数多くの人たちが瓦礫の撤去や清掃作業に入っていました(この時のリーダーを務めたゼミ生は、現在、福島民報で働いています)。この引率の下調べで、難民支援のNPOでミャンマーから亡命していた人たちとテントで4人で寝泊まりしたことも思い出深く、陸前高田や釜石・遠野を拠点としたボランティアは国際的なものでもありました(銃創で片足を引き摺っていたミャンマーの青年が、日本への恩返しと言いながら、懸命にがれき撤去作業に打ち込んでいた姿を思い出します)。この時の陸前高田の風景の中に、父と祖父母を亡くした小学生の佐々木朗希がいたことを考えると、彼が背負ってきたものの大きさを実感します。津波で流された三陸鉄道のコンクリート製の枕木は、大人数で手にしても、本当に重かった。