2024/06/30

「松本清張がゆく 西日本の旅路」第3回 ゼロの焦点・能登金剛

 西日本新聞の連載「松本清張がゆく 西日本の旅路」第3回(2024年6月30日)は、能登半島を舞台にした代表作『ゼロの焦点』を取り上げました。担当デスクが付けた表題は「戦後女性への思い 景色に投影」です。「戦後女性」という表題が少し気になりましたが、ちょうど「虎に翼」で「戦後女性」の群像が上手く描かれていることもあり、いつも通り担当者にお任せとしました。

 なお「文藝」掲載の「回想的自叙伝16」から引用した小倉の置屋の描写は、書籍化に際して削除されている箇所で、松本清張研究会でもお話しましたが、「私の発想法」などの講演録と合わせて、新しい松本清張像を考える上で、重要な一節だと考えています。

 清張作品の中で『ゼロの焦点』は、戦中に青年期、成人期(エリク・エリクソンの意味で)を迎えた登場人物を描いた系譜の作品で、「虎に翼」の寅子たちと同世代の女性が主人公です。私の叔母がこの世代で、「祭りの場」を書いた作家の林京子と高等女学校の在籍が重なるのですが、原爆投下直後の長崎のことを色々と話してくれました。『ゼロの焦点』を読むと、叔母の世代のエピソードを思い出しますが、叔父が陽気な人だったので(明治大学OB、三菱電機で出世、品薄だったファミコンを買ってくれた恩人)、個人的には『ゼロの焦点』ほどには、この世代の男女に、悲しいイメージは持っていないです。

 ちなみに「ゼロの焦点」の初出は、江戸川乱歩編集の「宝石」の1958年3月1日号です。当時の定価は150円、同年の2月1日に書籍の『点と線』が発売され、ヒットしていたこともあり、「宝石」の目次では横溝正史の「悪魔の手毬歌」と並んでトップ掲載でした。清張作品が掲載された時代の「雑誌のメディア史」については、先々、まとまった批評文を書く予定でいます。

https://www.nishinippon.co.jp/item/n/1229094/

2024/06/23

「松本清張がゆく 西日本の旅路」第2回 渡された場面・呼子

 西日本新聞の連載「松本清張がゆく 西日本の旅路」第2回(2024年6月23日)は、佐賀県唐津市の呼子を舞台にした晩年の代表作『渡された場面』を取り上げました。担当デスクが付けた表題は「玄界灘の魅力、今日に伝える」です。

 呼子は北部九州に住む人にとって日帰り観光で行く場所として人気があります。吉田修一さんの『悪人』でも、呼子のイカを食べる場面が重要な役割を果たしました。呼子が面する玄界灘は、世界有数の漁場といわれ、イカやサザエが美味しいです。西日本新聞社で「松本清張はよみがえる」の講演を行ったとき、アンケートで「好きな作品」に挙げていた方が多かったので、新連載の第2回で取り上げました。

「ばってん、魚の新しかものは嬉野でんが武雄でんが食べられるとよ。ここから朝の早かうちにトラックで海から揚がった魚ばどんどん運んどるけんね」など、佐賀の「裏事情」に通じた清張らしい、訛りを帯びた会話文が魅力的な作品です。

 次回は来週日曜の掲載で、西田藍さんとの直木賞予想対談は、7月中旬の掲載予定です。

玄界灘の魅力、今日に伝える 「渡された場面」 呼子(佐賀県唐津市)

松本清張がゆく 西日本の旅路(2)

https://www.nishinippon.co.jp/item/n/1226348/

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 今年のIAMCR(国際メディア・コミュニケーション学会)@クライストチャーチでは、Exploring inclusion of minorities in contemporary Japanese literature and visual worksという発表を行います。修士の時に三田の英文学専攻の演習を履修していたこともあり、たまに脱構築批評のテキストを読むのですが、今回はJonathan CullerのOn Deconstruction: Theory and Criticism after Structuralismと柄谷行人のOrigins of Modern Japanese Literatureを参照しています。

 Media Studies関連では、ハーバード・ロースクールの奇才で、Nudgeなど行動経済学の著作でも知られるCass Sunsteinが好みで、Going to extremes: How like minds unite and divide(なぜか未邦訳)を引きつつ、日本の現代小説とその映像化作品についてinclusion of minoritiesという観点から論じます。Cass Sunsteinは切り口の幅の広さが魅力で、来年出版予定のClimate Justiceも面白そう。

https://x.com/casssunstein

 近年、IAMCRは発表希望者が右肩上がりで(世界的にMedia Studies関連の研究者が増えているため)、査読やセッションの調整が大変だったよ、というメールが複数。南半球は真冬なので、NZLはベストシーズンではないですが、日本の梅雨よりは快適そうで、今週末からの滞在を楽しみにしています。

https://iamcr.org/christchurch2024

 AUSもNZLも米ESTAと同様に、スマホのアプリで渡航許可を有料で出していますが、日本もVISIT JAPANなどの渡航許可をオンラインで有料化して、新しい財源を作り、留学生や海外からの移住者の支援に回してほしいです。

2024/06/09

新連載「松本清張がゆく 西日本の旅路」第1回 半生の記・旦過市場

 西日本新聞の新連載「松本清張がゆく 西日本の旅路」が2024年6月9日よりスタートしました。書籍化した『松本清張はよみがえる』(西日本新聞社)とは異なって、小説の舞台となった場所に着目した連載です。第一回は「北九州の台所」といわれる小倉を代表する商店街・旦過市場の近辺を舞台にした『半生の記』を選びました。表題は、「自伝的小説」舞台の出発点 「半生の記」 旦過市場(北九州市)です。

『松本清張はよみがえる』で取り上げた50作品と異なる作品も数多く取り上げていきます。西日本を舞台にした代表作については、前回の連載とは異なる視点で論じていきます。今月は3回の掲載予定ですが、その後は毎月1~2回のペースでの掲載になる見込みです。『松本清張はよみがえる』に引き続き、吉田ジロウさんの挿画にもご注目下さい。どうぞよろしくお願いいたします。

「自伝的小説」舞台の出発点 「半生の記」 旦過市場(北九州市)

松本清張がゆく 西日本の旅路(1) 

https://www.nishinippon.co.jp/item/n/1221055/

2024/06/04

三田評論とReal Soundで『松本清張はよみがえる』ご紹介いただきました

 三田評論の2024年6月号の「執筆ノート」に『松本清張はよみがえる』の紹介文を掲載頂きました。三田評論は明治31年(1898年)創刊の慶應義塾の機関誌で、120年ほどの歴史を有する雑誌です。『松本清張はよみがえる』と関係付けて、福田和也先生のことや『福翁自伝』と松本清張の『半生の記』の比較などについて、簡潔にまとめています。福田先生の師匠の江藤淳も含めて、この原稿に登場する人物は皆、九州北部に縁があり、福澤先生と共に論じられたことが感慨深いです。

https://www.mita-hyoron.keio.ac.jp/literary-review/202406-2.html

 若手の頃に慶應義塾でTA・助手・助教・研究員・客員研究員・兼担講師・非常勤講師の仕事に就けたおかげで、その後の専任教員としてのキャリアが開けました。歴史ある「三田評論」に寄稿できて光栄です。以前にSFCスピリッツにも寄稿する機会を頂いたので、慶應義塾大学SFCネクスト30募金(国際学生寮・Hヴィレッジ)に寄付をして、家族で国際学生寮も見学させて頂きました。

https://www.sfc.keio.ac.jp/magazine/012488.html

 Real Sound(2024年6月3日)では、書評家のタニグチリウイチさんに、要点をおさえた良い書評を頂きました。ありがとうございます。

松本清張、なぜ再注目? 『松本清張はよみがえる』『松本清張の昭和史』に読む、現代的価値

https://realsound.jp/book/2024/06/post-1677543.html

 ゲンロンカフェでの「松本清張を発掘せよ」の冒頭部分の動画は下のリンクでご覧いただけます。原武史先生の鉄道と昭和維新、近代皇室に対する思いを対面で受け取ることができ、有難い機会でした。與那覇潤さんの司会の切れ味はさすがで、多岐にわたるトピックへの横断的な知性の魅力を改めて感じました。4時間半の話の随所に新鮮な議論があり、鉄道と昭和維新、皇室を切り口とした清張論の現代性とポテンシャルの高さを感じました。

 6月1日には松本清張研究会で藤井康江名誉館長をはじめ、元松本清張担当の編集者の方々や北九州市の清張記念館の方々、来場者の方々と講演を通した交流ができ、こちらも良い機会でした。松本清張の連載を続けていく上で、これ以上ない充実した週末でした。ありがとうございます。

https://www.youtube.com/watch?v=OhzCMSpk-FE