西日本新聞の連載「松本清張がゆく 西日本の旅路」第3回(2024年6月30日)は、能登半島を舞台にした代表作『ゼロの焦点』を取り上げました。担当デスクが付けた表題は「戦後女性への思い 景色に投影」です。「戦後女性」という表題が少し気になりましたが、ちょうど「虎に翼」で「戦後女性」の群像が上手く描かれていることもあり、いつも通り担当者にお任せとしました。
なお「文藝」掲載の「回想的自叙伝16」から引用した小倉の置屋の描写は、書籍化に際して削除されている箇所で、松本清張研究会でもお話しましたが、「私の発想法」などの講演録と合わせて、新しい松本清張像を考える上で、重要な一節だと考えています。
清張作品の中で『ゼロの焦点』は、戦中に青年期、成人期(エリク・エリクソンの意味で)を迎えた登場人物を描いた系譜の作品で、「虎に翼」の寅子たちと同世代の女性が主人公です。私の叔母がこの世代で、「祭りの場」を書いた作家の林京子と高等女学校の在籍が重なるのですが、原爆投下直後の長崎のことを色々と話してくれました。『ゼロの焦点』を読むと、叔母の世代のエピソードを思い出しますが、叔父が陽気な人だったので(明治大学OB、三菱電機で出世、品薄だったファミコンを買ってくれた恩人)、個人的には『ゼロの焦点』ほどには、この世代の男女に、悲しいイメージは持っていないです。
ちなみに「ゼロの焦点」の初出は、江戸川乱歩編集の「宝石」の1958年3月1日号です。当時の定価は150円、同年の2月1日に書籍の『点と線』が発売され、ヒットしていたこともあり、「宝石」の目次では横溝正史の「悪魔の手毬歌」と並んでトップ掲載でした。清張作品が掲載された時代の「雑誌のメディア史」については、先々、まとまった批評文を書く予定でいます。