2024/07/28

「松本清張がゆく 西日本の旅路」第5回 神々の乱心 吉野川

 西日本新聞の連載「松本清張がゆく 西日本の旅路」第5回(2024年7月28日)は、奈良県の吉野川や宮滝遺跡を舞台にした『神々の乱心』を取り上げました。担当デスクが付けた表題は「南北朝背景に「昭和維新」描く」です。ゲンロンでも少しお話しましたが、未完の『神々の乱心』について、作中で言及される「神霊矢口渡」に着目して、結末を論じた批評は、新しいものだと言えます。

 昭和から平成に時代が変わり、80歳になった松本清張が「週刊文春」に連載した未完の遺作です。昭和維新の時代を背景に、かつて『昭和史発掘』で取り上げた天理研究会事件や島津ハル事件などの不敬事件を下地とした「昭和維新の裾野の広さ」を物語る事件の数々を描いています。1968年に刊行された『Dの複合』のように、古代史や昭和史への関心と、推理小説が融合した作品だとも言えます。

 清張研究会でも述べましたが、結末の予想はさておき、南北朝時代を背景とした「神霊矢口渡」に着目した『神々の乱心』の解釈が重要なのは、確かだと思います。清張は「神霊矢口渡」を作中の一箇所で引いているわけですが、満州生れの新興宗教と、皇国史観のルーツとなった北畠親房の『神皇正統記』を融合させ、シャーマニズム的な昭和維新を描きたかったのだと思います。

 連載5回を終えました。旦過市場、呼子、能登金剛、門司、吉野川と、清張作品の舞台を歩みながら、良い手応えで、新連載を軌道に乗せられたと感じています。地方色の豊かさは清張作品の重要な特徴で、今日の「文化観光」のあり方を考える上でも、(映像作品を含め)面白い描写が多いです。読者の反響も良く、『松本清張はよみがえる』も1000部の増刷となりました(7月31日の発行)。8月は1回、9月は2回の掲載予定です。

https://www.nishinippon.co.jp/item/n/1240060/

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 7月21日は江藤淳の没後25年ということで、平山周吉さん、会田弘嗣先生、新潮社の風元正さん、先崎彰容先生、中央公論の磨井慎吾さん、與那覇潤さんと青山霊園の江藤淳の墓参り&飲み会を行ないました。恒例の会合ですが、世相を斬る雑談が飛び交う刺激的な会で、多方面で活躍されている皆さまのお仕事にいつも励まされています。執筆暦も20年を過ぎて、同業の方々から新しい刺激を頂けるのは有難く、来年は常勤の教員になって20年の節目ということもあり、連載以外にも一冊、本を出したいと考えています。

 夏休みは帰省しながらの家族旅行で、娘が鉄道好きなので、長崎行きは往路・復路それぞれプラス一泊の日本列島横断の旅となります。今年はジブリパークに行く予定です。宮崎駿とメディア史について再度、本を書きたいとは思うのですが、なかなか手が回らず、まだまだ先になりそうです。