2025/01/26

「松本清張がゆく 西日本の旅路」第12回 『実感的人生論』 旧小倉市立記念図書館(北九州市)

 西日本新聞の連載「松本清張がゆく 西日本の旅路」第12回(2025年1月26日)は、松本清張の代表的な随筆集『実感的人生論』を取り上げました。担当デスクが付けた表題は「学歴克服のエネルギー源」です。高等小学校卒で国民作家となった清張のバイタリティが感じられる作品です。

 本作には高等小学校を卒業後、給仕として働いた清張らしい人間観が記されています。人間は目的そのものであり、手段としてのみ使用されるべきではない、といった内容の、カントの『実践理性批判』に近いアフォリズムも記されています。

 連載第11回の「父系の指」で、清張が中学校に行けず、学歴には恵まれなかった経緯について記しましたが、松本清張は1922年に開設された小倉市立記念図書館に通い、独学で文学的な素養を身に着けました。円本ブームも思春期に経験しており、松本清張の文学的な素養は推理小説に限らず、大正10年代から昭和にかけての出版文化の総体に、影響を受けたものだったと言えます。

 実家が貧しかった清張にとっては、徒歩圏内に新しい図書館があり、古今東西の作品を無償で乱読できたことが大きかったと思います。「私のくずかご」という随筆が収録されていますが、本作は菊池寛が「文藝春秋」に記していた随筆「話の屑籠」から影響を受けたものです。メディア史的な観点からみても面白い記載があります。

 なお全集の月報などに記載のとおり、清張の長男の陽一さんは、小倉から上京した後、慶應義塾大学に入学され、その後電通に就職されており、清張は子供を通して「学歴克服」を果たしたとも言えるかも知れません。

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