2025/03/30

「松本清張がゆく 西日本の旅路」第15回 「青のある断層」 萩(山口県)

 西日本新聞の連載「松本清張がゆく 西日本の旅路」第15回(2025年3月30日)は、画家や画廊を描いた一連の作品のルーツと言える「青のある断層」を取り上げました。担当デスクが付けた表題は「絵描きの利点生かした舞台」です。

 画家・画廊に関する作品では、他に「装飾評伝」などが有名ですが、1957年に藝術新潮に連載された『日本藝譚』(後の『小説日本藝譚』)の「葛飾北斎」や「雪舟」、1978年に週刊新潮に連載した『天才画の女』など、何れも広い意味での代表作に挙げられています。書籍の『松本清張がよみがえる』(西日本新聞社)では、『小説日本藝譚』について取り上げましたが、「松本清張がゆく」の連載ではもう少し取り上げようと考えています。

 清張は印刷画工として朝日新聞に入社していて、1951年のデビューの年にも、全国観光ポスター公募の「天草へ」で次席の推薦賞を獲得しています。清張は国民的な人気を獲得した後も、印刷画工としての初心を忘れないため、広告の版下を描くのに使った製図台の上で小説を書いていました。

 本文で詳しく記しましたが、松本清張が小説を書くことを通して追及していたのは、印刷画工として培った「画力」と深く結びついた、「エスプリ(機知に富んだ精神)」に似た「何か」だったと私は考えています。

https://www.nishinippon.co.jp/item/n/1333208/

2025/03/27

PLANETS CHANNEL 酒井信 × 宇野常寛(連続対談『庭の話の話』)が公開されました

 PLANETS CHANNELで宇野常寛さんとの対談『庭の話の話』が公開されました。表題は「なぜ「アーキテクチャ」も「コモンズ(の共同体による自治)」も「解」にならないのか?」です。吉本隆明、柄谷行人、江藤淳、ジョナサン・カラー、ローレンス・レッシグ、ハンナ・アレント、ジョン・ロールズ、マイケル・サンデルなど、盛りだくさんの濃い内容でした。お時間のある時にでも、ご視聴いただければ幸いです。

酒井信 × 宇野常寛(連続対談『庭の話の話)

https://www.youtube.com/watch?v=VNLtRqemUr0&t=153s

2025/03/23

「松本清張がゆく 西日本の旅路」第14回 「或る「小倉日記」伝」 森鴎外旧居(北九州市)

 西日本新聞の連載「松本清張がゆく 西日本の旅路」第14回(2025年3月23日)は、松本清張の直木賞候補から芥川賞を獲得した「或る「小倉日記」伝」を取り上げました。担当デスクが付けた表題は「文豪の足跡追う主人公への敬意」です。

 この小説が発表された1952年、松本清張は朝日新聞西部本社で広告部意匠係として勤務しながら小説を書いていましたが、最初の「スランプ」に直面していました。新人作家として燻っていた清張を「三田文學」に紹介したのは、同誌の編集委員で「頭脳パン」でも知られる木々高太郎です。「或る「小倉日記」伝」で主人公の耕作を支援する白川慶一郎のモデルは、小倉の開業医で俳人だった曽田共助だとされますが、木々の姿も重なって見えます。

「西郷札」と比べると物語の面白さという点では劣りますが、清張らしい「人間に対する公平な眼差し」が生きた作品です。悲劇的な筋書きも坂口安吾や川端康成、佐藤春夫などから高い評価を受け、後続の清張作品に深みを与えたと思います。


https://www.nishinippon.co.jp/item/n/1330103/

 先日、楽天大学ラボで三島由紀夫や江藤淳などについて話したあと、宇野常寛さんからお声がけを頂き、PLANETS YouTubeチャンネルで「連続対談 庭の話の話」の収録を行いました。吉本隆明、柄谷行人、ジョナサン・カラー、ハンナ・アレント、マイケル・サンデルなど、盛りだくさんの良い話でした。「庭の話の話」としては、最長だったそうで、近日、アップロードされると思います。

2025/03/17

北海道新聞 古川真人著『港たち』書評

 北海道新聞(2025年3月16日)に古川真人さんの『港たち』の書評を寄稿しました。担当記者が付けたタイトルは「島と人 はかない血縁の力」です。古川さんの母方のルーツの長崎県平戸市の的山大島と思われる離島を舞台にした作品です。平戸は長崎よりも先にポルトガルに開港された港町で、トビウオ(アゴ)とヒラメとカスドースが美味しいです。

 短文の書評ですが、宮本常一、中上健次、さだまさし、村田喜代子の作品を参照しました。祖父母の家を訪れたような、のんびりとした時間が懐かしく、肉親との関係や故郷の風景を文章で表現したいという欲求は、小説を書く根源的な欲求なのだと思います。

https://www.hokkaido-np.co.jp/article/1135025/

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 楽天大学ラボでの宇野常寛さんと先崎彰容さんとの対談の収録を終えました。江藤淳、吉本隆明、三島由紀夫について、楽しく、深く考えさせられる内容でした。前後の話も含めて、お二方からはいつも仕事の刺激を頂けるので、ありがたいです。批評を書き続けるのは、本当に大変なことだと思います。今月は西日本新聞の連載「松本清張がゆく」が2回掲載されます。