2011/11/17

新潮45・12月号「ジョブズはそんなに偉いのか」

新潮45の12月号に「ジョブズはそんなに偉いのか」という原稿を書きました。
特集「言論の死角」の所に載っています。

http://www.shinchosha.co.jp/shincho45/backnumber/20111118/


ジョブズの自伝がベストセラーですが、彼自身が語り部となってひもとく「ジョブズ神話」は、鵜呑みにできるものでしょうか。スティーブ・ジョブズの経営者としての業績は、クリエーターとしての業績と区別して考えるべきだと思うのです。

そもそもジョブズはプログラムを一行も書かなかった人です。アップルのヒット商品の背後には、ジョブズを支えた数多くの有名無名の人たちが存在しています。日本ではジョブズ以外の人たちの業績がほとんど評価されていないように思うのです。

詳細は本文に譲りますが、アップルⅡの成功は、天才的なプログラマーだったS・ウォズニアックの功績なしにはあり得なかったものですし、マッキントッシュも元々はアップルの技術者だったジェフ・ラスキンのプロジェクトです。またピクサーがハリウッドを代表するスタジオとなったのは、ジョン・ラセターのアニメーション監督としての才能によるところが大きい。iMac, iPod, iPhoneの成功も、インダストリアルデザイナーのジョナサン・アイブの存在なしにはあり得なかったと思います。またジョブズの有名なスタンフォード大学での演説や彼のプレゼンテーションの背後にも、スピーチライターがいたことを忘れるべきではありません。

つまり「アップル神話」の背後には、数多くの「神々」が存在しているのです。しかし私たちは、ジョブズの魔法的な話術に掛かると、いつの間にか「ジョブズ一神教」の信者になって、彼一人を「偉大なクリエーター」として神棚に祭り上げてしまうのです。私たちはフェアに彼の周囲にいた人たちの業績も評価した上で、アップルとパーソナル・コンピューターの歴史を記憶していく必要があるのではないでしょうか。

またこの原稿の後半では、ジョブズが残した「負の遺産」についても考察しています。スティーブ・ウォズニアックが、オープンなウェブの文化を支持し、アップルⅡのマニュアルで製品の設計に関する情報を公開したのとは対照的に、ジョブズはクローズドな端末を普及させることで、今日のアップルの収益基盤を揺るぎないものにしています。例えばアップルは、自社製品の情報の秘匿を徹底したり、iPhoneやiPod内でアプリケーションを販売するディベロッパーから30%という高額の手数料(決済代行料)を徴収しています。しかしこのようなジョブズが打ち出した「クローズドな端末世界の方向性」は、私たちが生きる社会の未来にとって有益なものなのでしょうか。

詳細については、本文を読んで頂ければ幸いです。

それと2011年12月8日に、共著で『IT時代の震災と核被害』(インプレスジャパン)という本を出します。私は海外のメディア報道分析について30ページ弱書きました。この本の詳細については、また後日書きます。右上のアマゾンのリンクから予約購入できますので、ぜひ。

http://www.impressjapan.jp/books/3114