2018/11/11

西日本新聞「現代ブンガク風土記」第33回 有川浩『フリーター、家を買う。』

西日本新聞の連載「現代ブンガク風土記」の第33回(2018年11月11日)は、有川浩の『フリーター、家を買う。』について論じています。表題は「郊外に潜む闇と再生力」です。写真はドラマ版の舞台となった東急田園都市線の市が尾駅近くです。

この作品は正社員を辞め、フリーターとなった25歳の誠一を主人公とした物語です。私たちが現代的な風景として受容しているショッピングモールやチェーン店舗が建ち並ぶ風景は、正規雇用の半分ほどの額で働く非正規雇用の人びとによって支えられています。

「私自身が内定いっこも取れなくて社会人になってから数年間バイトや派遣で凌いだという切ない経歴の人でしたので、逆境スタートのほうがしっくりきた」と有川浩は「単行本版のあとがき」で記しています。彼女は自己の経験を踏まえ、非正規雇用で若者に着目して、2007年から2008年にかけて「フリーター、家を買う」を記しています。

有川の作家人生とも重なるこの作品は、フリーターという言葉が死語になるほど、非正規雇用の仕事が一般化した現代でも生々しく、一見すると裕福な東京郊外の住宅地に潜む、「家庭の闇の深さ」と「家族の再生力の強さ」の双方を巧みに捉えています。