2020/08/12

西日本新聞「現代ブンガク風土記」第120回 馳星周『不夜城』

祝120回! 西日本新聞の連載「現代ブンガク風土記」(第120回 2020年8月09日)は、新宿歌舞伎町の「裏の裏」を舞台にした馳星周のデビュー作『不夜城』を取り上げています。表題は「都会の「ジャングル」裏の裏」です。

連載も120回に達しましたが、取り上げる候補作のリストは増える一方で、まだ取り上げていない大作家の作品も多く残っています(馳星周もその一人でした)。全体に直木賞系の作家の作品を多く取り上げているのですが(現代小説の面白さを伝えたいため)、そろそろ芥川賞系の作家の代表作も、本腰を入れて取り上げていこう、と考えています。

『不夜城』は、私が大学に入学した年(1996年)に発表された作品です。中国マフィアの視点から日本最大の歓楽街である新宿・歌舞伎町を描いた視点が新鮮で、中国からの移住者や留学生が増加した現代日本の現実感を先取りしています。複雑な利害関係に根差した中国マフィアたちの人物描写が巧みで、個性的な登場人物たちが互いを出し抜こうと必死で戦う「群像劇」が、血生臭さを漂わせながら、目くるめく展開されます。


馳星周『不夜城』あらすじ

「日本の法律」が及ばない歌舞伎町を舞台に、台湾系日本人の健一と、育ての親の楊偉民、かつての仕事上のパートナー呉富春、中国東北部で生まれ育った夏美の関係を描く。一括りに中国人マフィアと呼ばれる人々が、台湾系・上海系・北京系・広東系など出身地域ごとに結束し、血を血で洗う抗争を繰り広げるハードボイルド小説。