2020/08/17

西日本新聞「現代ブンガク風土記」第121回 馳星周『少年と犬』

 西日本新聞の連載「現代ブンガク風土記」(第121回 2020年8月16日)は、東日本大震災と熊本地震の双方を描いた、馳星周の直木賞受賞作『少年と犬』を取り上げています。表題は「「守護神」の旅路描く震災文学」です。

東日本大震災の被災地を起点として、5年の歳月をかけて熊本に向かう一匹の犬と、その飼い主たちの物語です。収録された6つの短編を通して、最初の飼い主に「多聞」と名付けられたこの犬が、釜石から熊本への旅路で出会う人々との「言葉を超えた交流」が描かれています。「少年と犬」は、孤独な登場人物たちに「送りびと」として寄り添う一匹の犬の旅路を通して、私たちが暮らす世界の危うさと貴重さを炙り出した、馳星周らしい異色の震災文学です。


馳星周『少年と犬』あらすじ

釜石から熊本まで5年をかけて移動するシェパード犬の多聞と、その飼い主たちの生活を描いた作品。多聞は人々の「避けられない死」を見届けるために、飼い主を変えながら日本列島を南下していく。2011年の東日本大震災と、2016年の熊本地震を結びつける「少年と犬」の物語。第163回(2020年上半期)直木賞受賞作。