西日本新聞の連載「現代ブンガク風土記」(第140回 2021年1月10日)は、三浦しをんの箱根駅伝を題材としたベストセラー小説『風が強く吹いている』を取り上げています。表題は「選手の内面から迫る箱根駅伝」です。
走るという「原始的な運動」を極める大学の競争部の選手たちが「東京箱根間往復大学駅伝競走(箱根駅伝)」に挑む雄姿を描いた作品です。漫画化やアニメ化もされて人気を獲得し、大学駅伝を描いた小説として、幅広い世代に知られています。内面描写が魅力的で、明治大学の八幡山グラウンドに近い場所で練習する「寛政大学」の個性的な選手たちが、チームメイトやライバル、家族に対する複雑な感情と向き合いながら、「強さ」を模索して成長していきます。アニメ版では一部の選手が「前に!!」と腕に記していますが、これは明治大学のラグビー部の監督・北島忠治が唱えた「前へ。」というスローガンを連想させます。
実在するスポーツ大会を描いたエンタメ系の小説は多いですが、本作は純文学のような内面描写が魅力的です。選手たちが互いに励まし合いながら襷を繋ぎ、家族や友人たちへの思いを背負って走り抜く駅伝のリアリティを、日常的に数十キロの距離を走り、鍛錬を重ねてきた選手たちの青春を通して描いた、現代小説らしい「スポコン文学」です。