産経新聞朝刊(2023年6月4日)に福田和也著『保守とは横丁の蕎麦屋を守ることである』(河出書房新社)の書評を寄稿しました。表題は「日常を文化とする心」です。3度救急搬送されながら、この本を書き上げた福田和也先生への敬意を込めました。
文学とは人間の生き方に関わる学びである、という書き出しです。福田恆存の「伝統にたいする心構」を手掛かりに、蕎麦屋の下りを参照した福田先生とは異なって、文化とは生き方であり、狂気と異常から身を守る術だと述べている点に、着目しました。
これは、文化を「欲望の抑圧の形態」だと考えたフロイトの思想に近く、また「アイデンティティ」という概念を世に広めた発達心理学者のエリク・エリクソンにも近い考え方です。エリクソンの影響から書かれた江藤淳の『成熟と喪失』についても、心理学的な文脈を踏まえて読むことが重要だと考えています。
念のため、私は「政治的な立場の左右」の区別にあまり関心がありません。経済的な意味での「左右」もあれば、新しい技術の受容や移民の受け入れ、障がい者の包摂、コミュニティの維持のあり方、性的な多様性の受容、プロレスの好みなどに関する「左右」もあり、指標そのものが多様化・重層化しているという考えです。
院生の頃、福田先生と一緒に読んだみすず書房の『現代史資料』に目を通すと、社会主義運動の初期から昭和維新後でも相応に「左右」の言説が多様だったことが理解できます。例えばゾルゲ事件の尾崎秀実など「左右」の矛盾を生きた人の手記を読むと、マルクス=レーニン主義とアジア主義の間で、その限界も含めて考えさせられることが多いです。
個人的には「政治的に左」とされる方々よりも「左」の文献を読んでいると感じることが多く、また地方出身者なので、基本的に世帯年収の地域格差を括弧に入れた「小ブルジョア(マルクス)」的な議論が苦手です。
このため「左右」のパッケージで思考したり、「何々主義・イズム」を掲げたり、そのレッテルを他人に貼ることに意味を感じられず、「様々なる意匠(小林秀雄)」や、「アイデンティティ(エリクソン)」が重層化した世界の複雑性を前提として、無意識的な言動も含めた人間の実存に迫る「文芸批評な思考(≒精神分析的な思考)」が大事だと、個人的には考えています。
福田先生の著作ともそういう姿勢で向き合っています。福田先生の本について論じるのは、「文芸批評」の方法論上、工夫を要するので骨が折れますが、この本の原稿の連載中に、先生が3度倒れていることもあり、毎回、これで最後という気持ちで書いています。(今回の書評について、平山周吉さんからお褒めの言葉を頂けたので、ひと安心いたしました)
書評 日常を文化とする心 『保守とは横丁の蕎麦屋を守ることである』福田和也著
産経新聞
https://www.sankei.com/article/20230604-UB3SVSVSOFPZXM6ERJOD36HZUU/
楽天infoseek
https://news.infoseek.co.jp/article/sankein__life_arts_UB3SVSVSOFPZXM6ERJOD36HZUU/
NTT docomo
https://topics.smt.docomo.ne.jp/amp/article/sankei/life/sankei-_life_arts_UB3SVSVSOFPZXM6ERJOD36HZUU
goo ニュース
https://news.goo.ne.jp/article/sankei/life/sankei-_life_arts_UB3SVSVSOFPZXM6ERJOD36HZUU.html
livedoor
https://topics.smt.docomo.ne.jp/amp/article/sankei/life/sankei-_life_arts_UB3SVSVSOFPZXM6ERJOD36HZUU
Microsoft Start
https://www.msn.com/ja-jp/news/national
『福田和也コレクション1:本を読む、乱世を生きる』書評
https://www.kk-bestsellers.com/articles/-/945463/
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IAMCR(国際メディアコミュニケーション学会)の発表の準備中ですが、今さらながら大幅な人数制限がされていることに気付きました。3000弱の投稿のうち、数百のinvitation only での開催というのは、新型コロナの影響なのか、暴動がしばしば起きているフランス社会の影響なのか、疑問に思いました。新型コロナ禍で、既存の研究ネットワークが薄い研究者(若手やメディアからの転職者など)のコミュニケーション機会を考えると、平時の数千人規模の開かれた場に戻した方が良かったと思います。
円安で飛行機も宿もTGVのオンライン価格も高く感じましたが、久しぶりの海外出張で、フランスとその周辺の街の現実感を更新して、授業で学生に新鮮な海外イメージを届けたいと思います。
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他学部の学生のメール質問に回答したら「この授業は、大学に入ってから受講してきたたくさんの授業の中で最も楽しく受講できており、大学での主体的な学びに取り組むきっかけになっている……」という返信が来て、感動しました。明治の学生は、こういうちょっとしたコミュニケーションが上手いと思います。期末レポートにも期待してます。
来週はメディアに就職が内定した学生より、就職体験談を話してもらいます。学生からのリクエストに即した企画です。インターンや教員紹介による+αの活動に、積極的に取り組むことも大事だと思います。個人的には、教員の本を買って読み込み、質疑をする主体性が、シンプルに一番大事な気がします。