2018/07/08

西日本新聞「現代ブンガク風土記」第15回 佐川光晴『生活の設計』

西日本新聞の連載「現代ブンガク風土記」の第15回(2018年7月8日)は、今でもなお新人賞の小説の見本といえる佐川光晴『生活の設計』について論じています。表題は「現代を代表する『労働小説』」です。

「生活の設計」は、主夫として妻の実家で子育てをしながら、屠殺場で働く「わたし」を描いた私小説です。「わたし」は「チェ・ゲリバラ」と渾名を付けられるほど、汗でお腹を冷やし、下痢を起こしやすい体質でしたが、「最も汗をかきやすい仕事に就くことで逆に汗を制することができる」と気付きます。

佐川光晴さんは埼玉県の志木市在住の作家で、実際に主夫として家事や子育てをしながら、大宮の屠殺場で牛の解体の仕事に従事していました。「そもそもここはおめえみたいなのが来るところじゃねえんだからよ」と厳しい洗礼を浴びせられながらも、牛の上に10年、懸命に働き続け、牛を解体し、皮を剥ぐ技術を高めていきます。

この作品は、屠殺場を非日常的な世界として描くのではなく、そこを日常生活の延長にある場所として描いている点が新鮮な作品です。「働くことの意味」「生活することの意味」について深く考えさせられる、現代を代表する「労働小説」です。