2018/12/02

西日本新聞「現代ブンガク風土記」第36回 多和田葉子『犬婿入り』

西日本新聞の連載「現代ブンガク風土記」の第36回(2018年12月2日)は、多和田葉子の芥川賞受賞作『犬婿入り』について論じています。表題は「古い集落と新興地の『間』で」です。

2018年11月に多和田葉子は『献灯使』で、アメリカを代表する文学賞の一つ、全米図書賞(翻訳部門)を受賞して英語圏でも評価を高めています。「犬婿入り」は1993年に芥川賞を受賞した作品で、女性と犬との婚姻を題材とした「異類婚姻譚」と呼べる内容です。異類婚姻譚の中では「鶴女房(鶴の恩返し)」が広く知られていますが、「犬婿入り」は、老人が農業用水と引き替えに蛇や河童に娘を嫁がせる「蛇婿入り」や「河童婿入り」などの昔話をモチーフにした作品です。

多和田葉子は現役の日本の作家の中でも、異なる共同体の隙間にある現実感を「間主観」的に描くのが上手いです。「犬婿入り」を読むと、このような多和田の小説が、多摩川沿いの昔ながらの宿場町と、団地や新興住宅地との「間」で培われたものであるように思えます。「犬婿入り」は、国際的に評価される作家となった多和田葉子の「小説の風土や原風景」が感じられる作品です。