2019/08/19

西日本新聞「現代ブンガク風土記」第72回 青山七恵『ひとり日和』

西日本新聞の連載「現代ブンガク風土記」(第72回 2019年8月18日)は、青山七恵の芥川賞受賞作『ひとり日和』を取り上げています。表題は「京王線沿線20歳の成長物語」です。

台風の影響のためか、なぜか長崎が涼しく、久しぶりに長い時間、海水浴をすることができて、ちょうど良い夏休みでした。

青山七恵は人生の岐路に立った若者の心情を、魅力的な場所の描写に重ねながら表現するのが上手い作家です。この作品でも主人公の20歳の知寿の不安定な心情が、電車が通過する度にぐらぐらと揺れる下宿先の家の描写に重ねられています。

下宿先の家から駅のホームを眺めると、ホームの上に立っている人々が三途の川の向こうにいるように見えます。時に「死にたい」と思う知寿の際どい内面が、ちょっとした風景描写に影を落としていて、日常の中に深みを感じる作品です。

知寿は大学に行かず、将来の目的も定めず、フリーターとして働きながら、遠縁の71歳の吟子の家に居候しています。「世界に外も中もないのよ。この世はひとつしかないでしょ」という吟子の言葉は、知寿が生長するために必要なものは、学歴や正社員の仕事など他人に与えられるものではなく、「逃げ場のないひとつの世界」を生きるという自分で得るより他ない覚悟であることを示唆しています。

吟子が辛い失恋を経験しながら都会で生きてきた姿に感化されながら、人生に活路を見出していく知寿の姿に「青春」を感じる芥川賞に相応しい作品です。