2019/09/02

西日本新聞「現代ブンガク風土記」第74回 富岡多恵子『波うつ土地』

西日本新聞の連載「現代ブンガク風土記」(第74回 2019年9月1日)は、富岡多恵子の『波うつ土地』を取り上げています。表題は「新興住宅地の『性と信仰』」です。女性の作家が記した戦後小説の中でも屈指の名作だと思います。

この小説は多摩ニュータウンの一角を占める町田市を舞台とした作品だと考えられます。作中の描写の通り、町田市には、本町田遺跡公園など縄文時代の遺跡が多く残っています。谷と丘が凹凸をなし、波うつように斜面に家が建ち並んでいる土地の描写が、読後の印象に残ります。「土地は、海の方からおしよせてきて波うっているのか、それとも、陸の奥の、芯の方からおしよせてきたのか、この丘陵と谷戸の土地は、近年、都会からおしよせてきたヒトをのせて、波は大きくうねっているのだ。」

多摩ニュータウンの知名度の高さから、多摩丘陵は新興住宅地というイメージが強いですが、そこは小川が多く、湧き水も豊富であるため、縄文時代より前から多くの人々が暮らしてきた、関東でも有数の場所です。この作品のスケールの大きさは、「わたし」の不倫やアヤコの「信仰」のあり方を、太古の昔から繰り返されてきた、普遍性を有する人間の営みとして描いている点にあります。現代的な価値観の下で、性的な営みや信仰の形態は、限られたものに制約されていますが、本来、それは多様なものであることを、富岡多恵子は小説の全体を通して表現しています。

現在、ウランバートルでモンゴル国立科学技術大学との研修と、将来の相互協力に関する仕事に取り組んでいます。ご飯が美味しいので仕事も捗りますね。