2020/05/14

西日本新聞「現代ブンガク風土記」第107回 三崎亜記『失われた町』

西日本新聞の連載「現代ブンガク風土記」(第107回 2020年5月10日)は、三崎亜記の『失われた町』を取り上げています。表題は「消滅する「町」不気味な居留地」です。この作品は直木賞の候補作となり、林真理子や北方謙三に高く評価されましたが、企みの深い複雑な物語設定が賛否を呼びました。

日本地図に次々と空白地が生まれる世界観は、福島第一原発事故によって「帰還困難区域」が生まれた状況と重なりますし、新型コロナウィルスでロンドンやマドリード、ローマなど世界の主要都市で「都市封鎖(ロックダウン)」が行われている現在の状況とも重なります。もし福島第一原発事故後や新型コロナウィルスが蔓延する時代を経た後に発表されていたなら、選考委員の理解も得やすく、その評価も大きく変わっていたかも知れません。

オンライン授業もだいぶ慣れてきた感じで、5月中の授業の準備と録画を終えたところです。学生の皆さんの「自宅学習」の意欲を喚起できるような授業を心がけています。


三崎亜記『失われた町』あらすじ
およそ30年に一度、何の前触れも因果関係もなく、数万人単位の「町」の住民が姿を消し、多くの命が失われる。「失われた町」の記憶や痕跡が、汚染を引き起こし、次なる町の消滅をもたらす。このような負の連鎖に立ち向かう、桂子さんと由佳という世代の異なる二人の女性を中心に描いた長編小説。第136回直木賞候補作。