西日本新聞の連載「現代ブンガク風土記」(第133回 2020年11月8日)は、今村夏子『星の子』を取り上げています。表題は「新興宗教と社会 何が正常か」です。
今村夏子は「正常」とされている社会から逸脱する人々を通して、多くの人々が当たり前のものとして享受している「正常」さを疑い、内面的な普遍性を浮き彫りにするのが上手い作家です。「星の子」は新興宗教に帰依した両親の下で育った「ちひろ」の家族への愛情と青春を描いた瑞々しい作品で、芥川賞の候補作となり、一部の選考委員から高い評価を受けました。映画版は芦田愛菜の主演、大森立嗣の監督で2020年の秋に公開されています。
新興宗教団体で生まれ育った子を悲劇的に描くのではなく、貧乏ながらも家族愛に満ちたものとして描いている点が面白い作品です。ちひろは「あそこの家の子と遊んじゃいけません」と同級生に言われるなど、小学校では友達は少なかったが、両親は優しく、「教会」に行けば声をかけてくる人たちがたくさんいたため、適度に楽しい幼年時代を過ごしています。
どんなにちひろの家族が関わる「教会」が社会から爪はじきにされ、親族からも忌み嫌われ、地域や学校で悪評が立っても、信者とその家族にとってその人生が充実したものになることもあり得ます。「星の子」は両親が新興宗教に帰依した家庭の子供の内面を通して、そこに確かな親子の愛情があり、他の信者たちとの友情があり、恋心を抱く青春があり得ることを描いた、社会の「正常さ」に疑義を呈する「オーソドックスな純文学」だと思います。
今村夏子『星の子』あらすじ
効能の怪しい水=金星のめぐみを販売する「教会」に属する両親の下で育ったちひろの成長物語。滅多に教会に顔を出さない姉は、両親が「教会」に帰依するようになったのは「ちーちゃんが病気ばっかりしているから」だと恨んでおり、高校生になると家出してしまう。果たして信仰と家族の愛情は両立するのか。映画版は芦田愛菜の主演、大森立嗣の監督で2020年の秋に公開された。