西日本新聞の連載「現代ブンガク風土記」(第132回 2020年11月1日)は、朝井リョウ『武道館』を取り上げています。表題は「男性社会 生き抜く少女たち」です。
先月から取り組んできたBBCのドキュメンタリー2本の監修作業を終えました。来月、映像教材DVDとして2巻組で発売予定です(詳細は後日)。
法隆寺夢殿と富士山をモデルにした八角形の日本武道館は、日本の現代史に繰り返し登場する建築物です。皇居の北側の北の丸公園に位置し、1964年の東京オリンピックの柔道の競技会場として建設されました。その後、日本武道館は武道に関する競技会場として利用されながら、1966年にビートルズのコンサート会場として使用され「音楽の聖地」となりました。本作では現代のアイドルグループがコンサートを開く憧れの場所として、日本武道館が描かれています。
主人公の愛子はNEXT YOUというグループに所属する高校生のアイドルです。デビュー時に携帯電話会社のCMに出演したが、電車に乗っても誰にも気付かれない程度の人気しかありません。現代日本の女性アイドルは、握手をしたり、大量のサインをしたり、ドッキリに応えたり、日々ファンからの無理のある欲望に左右され、「日常に現れた異物」となることを余儀なくされます。本作は「アイドル戦国時代」と言える現代日本を生きる少女たちが、男性中心主義的な価値観と衝突しながら、自らの生きる道を模索する、朝井リョウらしい青春小説です。
朝井リョウ『武道館』あらすじ
日本武道館でコンサートを開くことを夢見るアイドルグループを描いた作品。痩せた大人数のアイドルが「秋は食欲まんてん!」と微笑みながら、本人たちは絶対に食べないようなカロリーの高そうな食べ物を紹介するといった芸能界の矛盾を描く。主人公・愛子が属するアイドルグループNEXT YOUは、「授業参観」と呼ばれるライブや「席替え」と呼ばれる握手イベントを行い、熱心なファンを獲得していく。