西日本新聞の連載「現代ブンガク風土記」(第155回 2021年4月25日)は、旭川市のいじめ凍死事件が起きたこともあり、いじめを題材とした現代小説の代表作、川上未映子『ヘヴン』を取り上げました。表題は「いじめの苦難「向こう側」夢見て」です。
旭川の事件は、母親・生徒の担任への相談も繰り返しあり、川への飛び込み事件も起き、警察の捜査も入り、転校もして、PTSDの診断もあっても、調査委員会が設置されておらず、凍死事件が起きるという、あまりにも悲惨なものでした。狭い人間関係の中で生じる陰湿ないじめを抑止する仕組みが、少しでも早く整うことを願っています。
川上未映子『ヘヴン』は冒頭で引かれた「目を閉じさえすればよい。すると人生の向こう側だ」という、ルイ=フェルディナン・セリーヌ『夜の果てへの旅』の一節が、読後の印象として強く残る作品です。
目を閉じて、人生の難局が過ぎ去り「人生の向こう側」へ行ければいいのに、と誰もが一度は願ったことがあるのではないでしょうか。この作品はいじめにあった14歳の男女が、殉教者のように目を閉じ、祈るように人生の苦境を乗り切り、その「向こう側」にある「ヘヴン」を模索する切なくも生命力に満ちた作品です。
写真は作品の舞台と思しき場所の近く、横浜市南区の大原隧道で撮影しました。作中の切ない恋心が写真で表現できてる気がしています。
先週末に批評本の批評(12枚)を書き終えて、ようやくGWを実感してきた今日この頃です。
西日本新聞 meの掲載記事
https://www.nishinippon.co.jp/item/n/729290/