「現代ブンガク風土記」(第175回 2021年9月12日)で、奄美大島近海を舞台にした有栖川有栖の『孤島パズル』を取り上げました。表題は「架空の南島舞台 放蕩ミステリ」です。
この小説は「閉じた場所」を舞台にしたクローズド・サークルと呼ばれる小説の系譜の作品です。大西洋を横断する豪華客船を舞台にしたモーリス・ルブランの「アルセーヌ・ルパンの逮捕」や、アメリカ北部の山荘を舞台にしたエラリイ・クイーン『シャム双生児の謎』、イスタンブール発の夜行列車を舞台にしたアガサ・クリスティーの『オリエント急行殺人事件』が、同ジャンルの小説の代表作として知られています。
本作は有栖川有栖の二作目の小説で、著者があとがきに記している通り「二十代最後に書いた」「特別な思い入れ」がある作品らしいです。二作目の小説は初めて編集者の依頼を受けて書いたもので、「人は誰でも一作だけなら小説を書ける」と言われるため、二作目こそ作家の力量が問われると著者は考えています。本作には、松本清張の「点と線」への対抗意識が感じられ、孤島で展開されるパズルが点から線へ、面から立体へと発展していく複雑な仕掛けが読み所です。
「本を読むという行為自体が非生産的で胡散臭いものなのに、その上探偵小説を選んで読み耽るなどとなれば、これはもう放蕩、放埓の極みじゃないか」と記されている通り、本作は海外ミステリを貪欲に消化したバブル世代の作家たちが生み出した「本格ミステリ」という名の「放蕩文学」の代表作だと思います。
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有栖川有栖『孤島パズル』あらすじ
架空の孤島・嘉敷島に集まった13人の男女は、文房具メーカー「アリマ」の創設者が残した5億円相当のダイヤモンドの隠し場所をめぐるパズルに挑む。台風が接近する不穏な雰囲気の中で殺人事件が起こり、ダイヤを巡る謎解きと犯人捜しのミステリが同時展開される。1989年に発表された有栖川有栖の二作目の作品。