「現代ブンガク風土記」(第174回 2021年9月5日)は、桜庭一樹の故郷の山陰地方を舞台にした『赤朽葉家の伝説』を取り上げています。表題は「山陰の製鉄守る女性三代」です。
桜庭一樹は島根県の生まれで、鳥取県米子市で育った作家です。米子市は島根県に隣接していて、境港市や松江市にも近いです。本作は直木賞を受賞した「私の男」の前年に発表された、故郷を舞台にした長編小説で、鳥取を代表する現代小説と言えます。境港を想起させる「錦港」など、細かな地名に修正は加えられていますが、鳥取にアパートを借り、本作を記したという経緯から、この作品に著者が強い思いを持っていることが伺えます。写真は私が米子城跡(素晴らしい眺望の場所です)に登って撮った写真です。
本作はたたら場の歴史を継承した製鉄の村の戦後史を描いた「全体小説」です。全体小説とは、私小説とは異なって、家族や地域や国家の歴史や盛衰を記しつつ、登場人物たちの成長や恋愛や冒険を描くような、総合的な小説を意味します。主人公は民俗学者が「サンカ」と呼ぶ「辺境の人」たちの捨て子・万葉です。出雲大社を擁し、世界文化遺産も含む多くのたたら場が点在し、製鉄業や造船業など重工業の発展にも寄与してきた山陰地方の歴史を踏まえた内容が味わい深い大作です。
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桜庭一樹『赤朽葉家の伝説』あらすじ
終戦から間もない頃、鳥取のたたら場の村に、山の民が「千里眼」の力を持つ赤子・万葉が置き去りにされる。やがて彼女は村で製鉄業を営む赤朽葉家に、跡継ぎの息子の嫁として迎えられ、「千里眼」の力を発揮して、一家が戦後に直面する危機を乗り切っていく。万葉の孫のわたしの視点から、祖母の万葉、少女漫画家の母の毛鞠の人生と、鳥取の製鉄の村の戦後史がひも解かれる。