「現代ブンガク風土記」(第200回 2022年3月20日)では、金城一紀の『GO』を取り上げました。担当デスクが付した表題は「パンチの効いた青春小説」です。『GO』は近年の直木賞の受賞作の中でも好きな作品の一つです。4年間書いてきた連載の第200回の原稿として相応しい名作だと思います。
金城一紀の『GO』は、差別を笑いへと変えていく、奥深い作品です。全体にユーモアに満ちた内容で、朝鮮総連のバリバリの活動員であり、マルクス主義を信奉する共産主義者の親父が「ハワイか……」とつぶやくところから、物語ははじまります。元プロボクサーで、パチンコ屋の景品所を営む父親(54歳)は、長らくハワイを「堕落した資本主義の象徴」だと家族に教えていました。しかし正月に放送されていたハワイ特番に感化されて、朝鮮籍からハワイに旅行しやすい韓国籍へ変更することを提案します。
主人公の「僕」は日本の高校で、それなりに充実した青春を謳歌しています。ただ「在日朝鮮人」として生まれ育ってきたことの壁が、人生の要所で立ちはだかり、「僕」は闘うことを余儀なくされます。人々が無意識的に内面化してきた「現代的な差別」の描写は、外国人の人口が増加し、Web上のリテラシーが問われる現代日本において、繰り返し参照されるべき文学的表現と言えます。
物語の要所で、プロボクサー時代に一度もダウンを喫したことのなかった親父のパンチが、「僕」に炸裂するシーンが面白いです。行定勲監督、窪塚洋介主演の映画版もいい作品でした。
本連載は200回を大きな節目として、もう少しだけ続きます。単行本の作業も無事、ひと段落し、あと二つほど原稿を終えると新学期という感じです。
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金城一紀『GO』あらすじ
元プロボクサーで、パチンコの換金所を複数営む裕福な家庭で生まれ育った「在日」の「僕」をめぐる物語。朝鮮籍から韓国籍に変わることで、人間関係が一変し、「僕」の青春も大きく変化していく。朝鮮学校の友人たちとの家族のような友情や、ジーン・セバーグ似の桜井との恋愛劇が読み所。映画版もヒットした第123回直木賞受賞作。