毎日新聞に新型コロナ禍の海外メディア報道に関するインタビュー記事が掲載されました。ニューヨーク・タイムズの英字テキストの定量分析と、アメリカの大学生がメンタル・ヘルスの危機を訴えている報道を踏まえた内容です。通常の新聞取材よりも長い時間、お話をしました。毎日新聞の青島さんに要点を上手くまとめて頂きました。専修大学文学部ジャーナリズム学科の澤康臣先生の談話と同時掲載です。
「コロナ感染巡る報道 個の死、伝えた米英/日本は「匿名志向」」毎日新聞(22年1月24日朝刊)
https://mainichi.jp/articles/20220124/ddm/004/040/051000c
この原稿を入稿した後も、東大の殺傷事件などが起きています。様々な報道がありましたが、一部の報道で出ている自傷行為など予兆があった点が重要だと思います。
極端化する世論形成の問題も同様ですが、メンタル・ヘルスについても個人と行政の間が大事で、心療内科医やカウンセラー、家族、友人、NPOが予兆の段階で果たす役割が重要だと思います。特に自傷行為や、その代替行為は未然に防ぐ必要があります。(「NPO メンタル」で検索すると、全国各地で様々な団体が無料相談に応じていることが分かります)。
私は臨床心理学は大学2年次までしか学んでいませんが、依然としてメンタル・ヘルスの問題は、多くの人に潜在する問題としては、理解されていないと思います。症状には強弱や波がありますが、論理的・数理的思考力や、特定分野を掘り下げる力、瞬時の判断力や素直な感情表現の良さなど、ポジティブな側面を伴うこともあります。自覚していない人にも、その心的傾向があることも珍しくありません。ハイデガーが「不安」という概念を起点として『存在と時間』を記したように、「不安」や「妄想」が、世界や社会に対する存在論的な思考の条件だとも言えます。文芸の歴史に名を残した多くの作家たちが、心的な病を抱えていたことは自明です。
メンタル・ヘルスの問題にはグラデーションがあり、再発しやすいものでも、投薬と生活習慣の改善で緩和され、支障が出にくいものもあります。生活習慣の改善(特に食事と睡眠と運動)やコミュニケーションの学び(礼節、ネット依存対策、情報リテラシーなどを含む)も重要だと思います。症状が重くなる場合は、日本では雇用義務・雇用率も明示されていますので(2018年よりメンタル・ヘルスの問題も適用)、上手く準備をすれば、安定したキャリアを形成することも可能です。私が過去に担当した演習・卒論の履修者で、この雇用枠で国家公務員に採用された人もいます。
文筆業や公務員など、一部の業界ではよくある話ですので、冷静に役立つ情報を集め、理解のある身近な人や、心療内科やカウンセラー、NPOの窓口などに相談しながら、自分に合った問題の緩和の仕方を、「気長に」見つけることが大事だと思います。私自身も新型コロナ禍を機に、文芸批評やメディア研究に、ゆるゆると心理学の知見を取り入れていきたいと考えています。