2022/12/14

「没後30年 松本清張はよみがえる」第28回「張込み」

 西日本新聞の連載「松本清張はよみがえる」第28回(2022年12月14日)は、映画版で広く知られる短編「張込み」について論じています。担当デスクが付けた表題は「刑事の目通して描く つかの間輝き放つ女」です。毎回、9×9文字で担当デスクに上手いタイトルを付けて頂いています。様々な隠し事を抱えた家族が「郊外の日常」を取り戻していく姿を描いた、角田光代の『空中庭園』とのmatch-upです。

「張り込み」は、泥臭い捜査で犯行の動機と真相に迫る「叩き上げの刑事」を描いた最初期の短編です。「顔」に続いて1958年に映画化され、高峰秀子が演じるさだ子の悲哀と、大木実が演じる刑事の人情が、多くの人々を魅了しました。後に「砂の器」などで知られる野村芳太郎が監督した最初の清張作品で、助監督は若き山田洋次です。映画版の冒頭で九州行きの電車の車内の混雑と、ランニング一枚で汗を流しながら長旅に耐える刑事たちの姿が描かれ、「張り込み」が容易ではないことが暗示されます。

 やがて石井とさだ子はバスに乗り、平凡な日常から逃れるように温泉宿へと旅立っていきます。さだ子は「別な生命を吹込まれたように、踊りだすように生き生きとしていた。炎がめらめらと見えるようだった」と形容されています。前半の張り込みの描写の「緊張」と、後半の逢瀬の描写の「弛緩」が対照的な作品で、平凡な暮らしを送るさだ子が、石井との逃避行に魅了される姿が輝いて見えます。銃撃戦もメロドラマも起きず、映画版で高峰秀子が演じるさだ子が何事も無かったかのように日常に帰っていく姿が健気です。

 28回目に至っても有名な作品が数多く残っているのが、松本清張のすごい点だと思います。平日の連載のため年末年始は掲載が少ないですが、年明けは第29回から再開します。1月は西田藍さんとの恒例の直木賞予想対談も掲載予定です。今回も優れた作品が候補作に挙がっています。

https://www.nishinippon.co.jp/item/n/1027983/

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 The New York Times(と The Japan Times)の月極宅配が、1月から7500円に値上げとか。朝日の英字版やIHTだった頃から、20年ぐらい購読しているので習慣として止めにくいですが、数年前まで5000円ぐらいだったことを考えると、割高感がすごいです。NYTだけオンラインでサブスクライブしようかな、と常識的には考える訳ですが、輪転機と製紙産業を守るために1万円ぐらい出すので、西海岸のL.A. Timesなど、もう一紙付けてほしい。

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 宮崎駿の10年ぶりの新作「君たちはどう生きるか」が、2023年7月の公開ということで楽しみ。公開されたポスターが吉野源三郎の同名小説と全く関係なさそうなのが良いです。「風立ちぬ」と同様に、オリジナルの内容に期待してます。15年ほど前に宮崎駿の新書を書いた時、「崖の上のポニョ」の試写を九段会館で観ましたが、その後、九段会館は震災で無くなり、しばらく「崖の上のポニョ」が放送されなくなり(津波のシーンのため)、その後も、「風立ちぬ」一作。80歳を超えての新作とは、松本清張や大西巨人、金石範のようなバイタリティです。例えばスイスのJungfraujochの登山電車で宮崎が描いたハイジが流れるのを見たり、インドのMumbaiで未来少年コナンのTシャツを着ている人を見かけるなど、国際的な影響力が「日本の作家」の中で群を抜いています。たぶんどこかに何か書くと思います。

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 今年のCollege FootballのPlayoffは、Ohio Stateをアウェイでupsetしたミシガン大学(University of Michigan)を応援しています。10万人超のクレイジーなスタジアムを持つ名門校で、昨年はOrange Bowlでジョージア大学に敗れましたが、今年は勢いがあります。勝てば1997年以来で、メディアの期待も高まっています。rust belt のrivalryをplayoffの決勝でも観たい。NFLは「地獄の黙示録」のカーツ大佐のような雰囲気で、45歳で現役を続けているTom Brady(ミシガン大学出身、ドラフト6巡199位)を応援してますが、Mahomes君のKCかHurts君のPhillyなど若いチームが無難にSuper Bowlに出そう。昨年SBを獲ったStaffordはBradyより悪い成績で、試合を休みピザのCMに出まくってるので、Bradyには現役を続けてほしい。西海岸のチームへの移籍もありかも。

https://www.youtube.com/watch?v=2bnv2Qv1KHg